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《戦時経済》【ウクライナ侵攻】対露エネルギー決済を「期限付き」とした経済制裁の意味=榎本裕洋

ロシア・サハ共和国の天然ガス処理施設。期限付きで当面の取引は認められても…… Bloomberg
ロシア・サハ共和国の天然ガス処理施設。期限付きで当面の取引は認められても…… Bloomberg

経済制裁 長期、持続的にロシア分離 エネルギー決済は「期限付き」=榎本裕洋

 ロシアのウクライナ侵攻に対し、米欧日が矢継ぎ早に経済制裁を打ち出している。対露経済制裁はヒト、モノ、カネの3分野にわたって、広範にロシアとの経済的な取引を制限し、ロシア経済を弱体化させることに狙いがある。ただ、原油、天然ガスといったエネルギーについては、ロシアは世界有数の供給国であり、即座に取引が停止しないように設計されていることに気を付けたい。

 まず、米欧日の経済制裁は、(1)カネに対する制裁、(2)モノに対する制裁、(3)ヒトに対する制裁──に大きく分けられる(表)。(1)はロシアの団体・個人が持つ資産の凍結のほか、国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除などがあり、(2)はロシアへのハイテク部品の輸出やロシアからの原油などの輸入を物理的に停止する。(3)は米欧日への渡航禁止や特定のロシア人個人の資産凍結などが含まれる。

 こうした制裁によってロシアとの貿易や投資、人の移動は困難になるが、実は原油、天然ガスといったエネルギーの支払いについては、期限付きで制裁の対象外とすることで影響を緩和するよう制度設計されている。いうまでもなく、欧州はロシア産エネルギーへの依存度が高いためで、英BPによれば欧州は2020年、天然ガスの33%をロシアから輸入し、ロシアは天然ガス輸出の実に78%を欧州に振り向けている。

 エネルギーの支払いを対象外とする狙いは、2月24日のダリープ・シン米国家安全保障副補佐官の発言からも明らかで、シン副補佐官は「我々の制裁は、ロシアから世界への現在のエネルギーの流れを混乱させるようには設計されていない。制裁を受けた機関からのこれら(エネルギー)の流れの秩序ある移行を可能にするために、期限付きでエネルギー支払いを切り分けた」と述べている。

「失敗を分からせる」

 一連の米国の対露経済制裁のうち、金融制裁は米財務省が大統領令に基づいて制裁対象や制裁内容を指定する。米財務省の2月24日の発表によれば、ロシアのズベルバンクやVTBバンクといった、エネルギー関連の取引が深い銀行が絡む公的な合弁企業との取引などは認可されるとされ、その期限は今年6月24日米国東部夏時間午前0時1分までとなっている。

 このような設計になった最大の理由は、エネルギー貿易の途絶が欧州・ロシア双方に致命的影響を与えるからである。期限付きでロシア産エネルギーへの支払いを認めることで、ロシアからの輸入国・地域が期限までの代替調達先を確保し、ロシア産エネルギーへの依存度を引き下げることを狙っている。エネルギー専門サイトでの弁護士の解釈を見ると、この期限は今後延期されていく可能性もあるという。

 そもそも、2月26日のホワイトハウス声明でも明示されているように、今回の一連の経済制裁の目的は、「長期的かつ持続的」に機能することで、プーチン大統領に「戦争は戦略的失敗だった」と認識させることにある。エネルギー貿易の途絶が欧州・ロシア双方に致命的影響を与えては、「長期的かつ持続的」な制裁の制度設計コンセプトになじまない。

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