新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

経済・企業 世界戦時経済 

《戦時経済》【ウクライナ侵攻】小麦、トウモロコシ、肥料……供給難が招く途上国の食料危機=阮蔚

ウクライナ・チェルニヒウでの小麦の収穫風景(2017年8月)。ロシアの侵攻による影響はあまりに大きい Bloomberg
ウクライナ・チェルニヒウでの小麦の収穫風景(2017年8月)。ロシアの侵攻による影響はあまりに大きい Bloomberg

穀物 供給不安で小麦が過去最高値 途上国に食料危機の可能性=阮蔚

 ロシアのウクライナ侵攻は、安全保障上の対立にとどまらず、その影響は穀物など食料供給、農業生産を通じてグローバルに波及する。ロシアやウクライナは世界有数の食料生産国、輸出国であり、その供給が途絶えれば、両国からの食料輸入に依存する新興国に特に深刻な影響が生じる。 すでに穀物価格は大幅に上昇しており、世界が供給不安にさらされている。

 小麦の国際指標価格である米シカゴ商品取引所の先物価格(中心限月)は3月7日、1ブッシェル=13・11ドルと統計が取れる1972年以降で最高値を更新した。ウクライナ侵攻が始まる前の2月7日に比べ、70・3%も上昇している。また、トウモロコシなどの価格も高騰しており、国連食糧農業機関(FAO)の食料価格指数は今年2月、140・7を記録。過去最高だった2011年2月の137・6を超えている。

 FAOの統計では、ウクライナは20年に穀物(コメ、小麦、大麦、トウモロコシなど)生産量で世界9位の大生産国であり、輸出金額では米国に次いで世界2位に食い込んでいる。品目でみれば、小麦は生産量で8位、輸出量では5位(表1)。トウモロコシも生産量は5位、輸出量は4位(表2)。4400万人の人口の食を賄ったうえで、なお莫大(ばくだい)な輸出余力を持つ点がウクライナ農業の特徴といえる。

 生産の潜在力はさらに大きい。国土の約7割が平坦(へいたん)な農耕地で、その大半が「チェルノーゼム」と呼ばれる肥沃(ひよく)な黒土地帯。世界の黒土の3分の1がウクライナにあるとさえいわれる。ウクライナの農業は21世紀に入って順調に発展し、00年に2381万トンで世界20位だった穀物生産量は、20年に6432万トンと2・7倍に拡大。13年以降は毎年、上位10カ国以内にランクインしている。

ヒマワリも一大産地

 ウクライナの農業で忘れてはいけないのは、ヒマワリだ。1970年のイタリア映画「ひまわり」で舞台になったのが今、戦場となっているウクライナ南部のヘルソン州である。ウクライナは世界最大のヒマワリ油の生産国であり、世界の輸出量の半分近くを占めている。大豆油、菜種油、パーム油など世界の食用油の需給が逼迫(ひっぱく)し、価格が高騰する中で、ウクライナ農業が持つ重要性を象徴している。

 世界の食料需給にとって深刻なのは、ウクライナからの輸出が断たれることだけではない。ロシアはウクライナ以上の大食料供給国であり、米欧日などの経済制裁によって世界から排除されるショックは計り知れない。ロシアは20年に小麦生産で中国、インドに次ぐ世界第3位、穀物全体では第4位。だが、小麦の輸出では3727万トンとトップで、2位の米国、3位のカナダをそれぞれ1000万トン以上上回っている。

 振り返れば、冷戦期の旧ソ連は農業生産の効率が上がらず、たび重な…

残り1273文字(全文2473文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)が、今なら2ヶ月0円

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事