国際・政治

《世界経済入門》インフレ加速で個人消費に重し、安全資産ドルの需要は強まる=高橋尚太郎

ウクライナ危機は物価上昇を通じ消費マインドを悪化させる Bloomberg
ウクライナ危機は物価上昇を通じ消費マインドを悪化させる Bloomberg

何が起きるか2 米経済の火種 インフレ加速で個人消費に重し 安全資産ドルの需要は強まる=高橋尚太郎

 米国では、国内総生産(GDP)の7割近いシェアを占める個人消費が、再び拡大基調を強めている。新型コロナウイルスのオミクロン株感染が下火になり、また、2020年以降、通常の失業保険給付に加え、コロナ禍対応として週300ドルが追加支給されたほか、3度にわたる現金給付が行われた。行動制限によって普段より支出が抑えられた分を考慮すると、国民1人当たり5000ドルを超える過剰貯蓄が積み上がっているとの試算もある。

 コロナの感染が収まると、こうした手厚い給付金(過剰貯蓄)を持った人々が街に出て、個人消費を拡大させる。さらに、個人消費の拡大に応えようと、供給制約の緩和に伴って、企業は在庫積み増しや設備投資拡大に動く。米国経済は内需主導で回復基調を維持する見込みである。

EU向け原油輸出が拡大

 ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁が米国経済に及ぼす影響はどうか。まず、輸出に対する影響は軽微とみられる。ロシア向け輸出は全体の0・4%のシェアに過ぎず、ロシアの景気悪化に加え、同国に対する半導体など先端技術品の輸出禁止や最恵国待遇撤回(議会で審議中)の影響により半減したとしても、輸出全体を0・2ポイント押し下げる程度である。

 他方、欧州連合(EU)向け輸出は全体の16%弱と大きなシェアを占め、仮にEUの成長率が1ポイント低下した場合は、過去の経験則から輸出全体を0・4ポイント程度押し下げる。ただ、この影響はEU向け原油輸出の増加がおおむね相殺するだろう。すなわち、EUはロシアからの原油・天然ガス輸入を減少させる方針であり、米国はその有力な代替輸入先となる。

 米エネルギー情報局(EIA)は、米国の原油生産が今年の夏に日量50万バレル、12月には110万バレル増加すると見通している。この多くがEUに向けられるとすると、米国のEU向け原油輸出は21年の日量80万バレルに対して、22年は5割程度増える計算となる。

 EU向けの原油・天然ガスが輸出全体に占める割合は1%強につき、これにより輸出全体は0・5ポイント程度押し上げられ、原油以外のEU向け輸出減少分をカバーすることとなる。

 むしろ、米国にとってウクライナ危機は、物価上昇(インフレ)を通じた個人消費に対する悪影響をもたらす可能性が高い。

 既に、米国ではインフレの加速が大きな問題となっている。直近2月の消費者物価は前年比プラス7・9%と、平均時給の前年比プラス5・1%程度を上回り、物価の上昇が消費者のマインドを悪化させる(図1)。

 これまで物価が大幅に上昇してきた要因は、第一に、需要回復に対して、労働者不足や世界的な部品不足などの供給制約が重なり、需給が逼迫(ひっぱく)したことであり、第二に、原油など国際商品相場の上昇が加わったことである。

 コロナ収束により労働者不足が緩和され供給力が回復に向かうことで、22年央にはインフレ率がピークアウトするとみられるが、ウクライナ危機を受けた国際商品相場の高止まりにより、インフレ率のピークは以前の想定…

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