国際・政治 世界経済入門
《世界経済入門》厳しいロシア制裁の跳ね返りを懸念も、政策強化でマイナス成長は回避へ=伊藤さゆり
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何が起きるか4 欧州の不安 対ロシア制裁の跳ね返り懸念も政策強化でマイナス成長は回避=伊藤さゆり
ロシアのウクライナ侵攻は、欧州にとって第二次世界大戦後に構築された安全保障体制への挑戦という極めて重大な出来事だ。経済にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。
欧州連合(EU)は、ロシアのウクライナ侵攻に、北大西洋条約機構(NATO)を主導する米国と歩調を合わせて、武力による直接介入を封印する一方、ウクライナへの支援とロシアへの厳しい経済・金融制裁で応戦している。
経済・金融に底堅さ
EUの制裁は、ロシアを最大の調達先とするエネルギーは制裁対象から除外、金融制裁でもエネルギー代金の決済に配慮し、大手銀行を対象外とするなど、米英に比べて生ぬるく映る。
しかし、ウクライナ侵攻を受けた制裁措置は、2014年のクリミア併合後の措置よりも格段に厳しい。ロシア経済には急ブレーキが掛かり、国内外での債務不履行は拡大するだろう。
EUが米英と足並みをそろえた効果は大きい。ロシア中央銀行の外貨準備によるルーブル買い入れを困難にする金融制裁は、ロシアの金融システムの外貨依存度の高さ、ルーブルの信認の弱さという弱点を突いた。ロシアの外貨準備に占めるユーロの割合は32%でドルや中国・人民元を上回る(図)。ロシアは、大幅利上げと資本規制という国内経済に痛みの大きい防衛策を強いられている。米エール大学の3月25日時点の集計によると、西側企業の自主的な判断による撤退や事業の凍結・縮小は450社にも及ぶ。原油や石炭の買い控えも広がる。
時間の経過とともにEUの制裁対象がエネルギーに拡大する可能性も高まる。ドイツのショルツ首相は、3月7日の声明で「ロシアからのエネルギー輸入は必要」との見方を示しているが、ロシアへの脅威認識が強い中東欧は制裁強化を求める。EUはウクライナを支援する一方で、ロシアにエネルギー代金として戦費を供給し続ける矛盾をいつまでも抱え続けることはできない。
厳しい経済・金融制裁は、相互依存関係が強い場合、制裁を科す側が受けるマイナスの影響も大きい。貿易や金融を通じた結び付きやロシア産エネルギーへの依存のために、欧州はウクライナ侵攻から他地域より大きな影響を受ける。ただ、現時点ではEUやユーロ圏経済全体が一気にマイナス成長に落ち込むことはないと見られる。
第一に、コロナ禍からの回復過程で、行動制限により抑制されていたサービス消費などのペントアップ(繰り返し)需要が期待されることだ。インフレ加速は、実質所得の目減りをもたらすが、ユーロ圏の雇用情勢は、失業率が過去最低水準にあるなど堅調。貯蓄の水準がコロナ禍での行動制限と所得支援で平時のトレンドを上回っていることもバッファー(緩衝)となる。
第二にエネルギーの問題に最優先で政策対応が講じられることだ。欧州各国は、昨年秋以降の価格高騰に所得支援や価格安定化策で対応してきたが、ウクライナ侵攻後、対応はさらに強化されている。供給量の不安にも調達先多様化や備蓄増強が進められている。
第三に、ロシアの債務問題がEUの金融システム全体を揺るがす…
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週刊エコノミスト
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