国際・政治

《世界経済入門》経済指標で読む危機の影響、プロ注目の「3つの物差し」=愛宕伸康

経済指標で読む危機の影響 プロ注目の「三つの物差し」=愛宕伸康

世界の実質成長率 「グローバル経済の体温」 急低下後も残る不確実性

 経済協力開発機構(OECD)が3月17日に発表したリポート『Economic and Social Impacts and Policy Implications of the War in Ukraine』(ウクライナ戦争の経済社会的影響と政策的示唆)によると、今回の戦争は世界経済の実質成長率を1%以上押し下げる。

 これは、昨年12月のOECD経済見通しで示された2022年の4・5%が3・5%以下に下振れることを意味する。国際通貨基金(IMF)が1月に出した世界経済見通し(WEO)でも22年は4・4%であり、これに当てはめても結果はほぼ同じだ。

 このように世界の実質成長率が一気に1%以上下振れるというのは尋常なことではないが、下振れたとしても3%台半ばであり、過去に比べると特別低いわけでもない(図1)。中国株が暴落しチャイナショックと呼ばれた15年の3・4%と同程度か、ITバブル崩壊後の01年や02年、さらにはロシアの財政危機を契機にLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)が破綻した1998年より高い水準だ。

 もちろん不確実性は大きい。今回の試算は各国の波及メカニズムが考慮された「NiGEM」というOECDのグローバルマクロ経済モデルを使った結果ではあるが、さまざまな前提条件を置いて計算されている。

 例えば、ロシアとウクライナの内需が最初にそれぞれマイナス15%、マイナス40%減少すると設定しているほか、原油価格などの商品市況は、ロシアがウクライナに侵攻を始めた2月24日から2週間後までの上昇がそのまま続くと想定している。そうした前提が崩れると当然、結果は大きく変わってくる。

 OECDの試算結果は日本経済への影響を考えるうえで、一つの目安を与えてくれる。内閣府が作成している「短期日本経済マクロ計量モデル(18年版)」の乗数表を見ると、原油相場が20%上昇したとき日本の実質GDP(国内総生産)は1年間で0・08%下振れる。

 また、世界経済が1%下振れると日本の実質GDPは1年間で0・31%下振れる。これにOECDの試算結果を当てはめれば、厳密ではないが日本の実質GDPを0・4~0・5%押し下げると予想できる。22年の日本の実質成長率に対するOECDの見通しは3・4%、IMFは3・3%だが、オミクロン変異株の感染拡大により1~3月期が大きく下振れていることも加味すると、今後2%台前半への大幅下方修正もありそうだ。

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 OECD試算で、もう一つの重要な結果は、エネルギーや素材原料など資源価格の上昇が世界の消費者物価に与える影響だ。すなわちインフレリスクである。ロシアとウクライナは原油の世界輸出量11%、天然ガス、鉱物性肥料、トウモロコシ20%、小麦30%を占めるなど、さまざまな商品市場における重要なサプライヤーだ。自動車の触媒に利用されるパラジウムやバッテリー製造に欠かせないニッケル、半導体製造に使われるアルゴンやネオンといった希少資源の供給元でもある。

 こうした資源の供給が厳しくなればそれらの価格は当然跳ね上がる。それによるコスト増を最終価格に転嫁する動きが強まれば消費者物価も上昇する。OECDは今回の戦争で世界の消費者物価が約2・5%押し上げられると試算する。すでに欧米では新型コロナ感染症に伴う労働力不足などの供給制約や大型経済対策を背景とする需要拡大によって、消費者物価が数十年ぶりに高騰している。そこにさらなるインフレ圧力が加わるのだから事態は深刻だ。

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