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経済・企業 世界エネルギー大戦 

ウクライナ侵攻で激化! LNG争奪戦と地図で分かる日本のLNG調達先=宗敦司

LNG争奪戦 一大需要地に欧州が急浮上 日本が試される調達先確保=宗敦司

 今年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始する以前から、世界のLNG(液化天然ガス)プロジェクトは拡大傾向を示していた。脱炭素化に向けた石炭からの転換として、特に中国や東南アジアなどで火力発電用LNGの需要が増加傾向にあるためだ。その対応でLNG液化プラントの増設が必要なのだが、2017年以降はなかなか新規のLNGプロジェクトは立ち上がらなかった。

 それは、17年ごろに原油価格が低迷し、LNG価格も連動して低下したため、LNGプロジェクトの採算性の確保が難しくなったためである。すでに進められていたプロジェクトも、その後の新型コロナウイルスの感染拡大の影響で遅延した。このため23~25年は新規LNGプラントの立ち上がりが少なく、LNG需給逼迫(ひっぱく)が予想されている。

 この需要拡大への対応と、LNG販売価格の上昇で、昨年からLNGプロジェクトが動き出してきた(表)。今年もすでに、米LNG開発会社のテルリアン社が米ルイジアナ州で計画するドリフトウッドLNGが最終投資決定(FID)を行ったほか、米ベンチャーグローバルのプラークミンズLNGやフリーポートLNG増設などの複数の米国のLNGプロジェクトがFIDとなる見込みだ。

 それに加えて、カナダのウッドファブレLNGのFIDや、カタールのノースフィールドサウス(NFS)プロジェクトでのFEED(基本設計)がスタートする予定となっている。その他にも、米国で複数のプロジェクトが計画されているのに加え、カタールの次期増設案件やモザンビークのロブマ、パプアニューギニア増設案件など、次々に計画が動きつつある。

色めくプロジェクト

 そこに今回のロシアによるウクライナ侵攻と、27年までの欧州のロシア産ガス脱却をうたった今年3月の欧州連合(EU)首脳会議の「ベルサイユ宣言」が、さらなるLNGプロジェクトの新規計画の増加に拍車をかけることになっている。欧州は主にパイプラインを通じてロシアから年間4870億立方メートルのガスを輸入しているが、これをすべてロシア以外からのLNG輸入に置き換えようとするとどうなるのか。

 その量は年間1億4000万トンにもなると試算されており、これは日本の年間LNG輸入量の約2倍に相当する。これまで欧州はロシアからのパイプラインで潤沢に天然ガスが供給されることを前提に、LNG需要が減退すると見られていた。もともとLNGの需給が逼迫しつつあり、価格も上昇をたどっていた中で、欧州が一気にLNGの一大需要地として浮上したわけだ。

 世界のガスプロジェクトはすでに色めき立っている。例えば、これまでガスの利益配分を巡って開発する側と政府で対立し協議が進まなかったパプアニューギニアの計画で、米エクソンモービルとパプア政府が今年2月、ガス田開発に合意。23年にもFIDとなる見込みとなった。さらに、表には示していないが、オーストラリアでも既設LNGプラントの拡張計画が動き出した。

 メキシコでも現在、建設中のコスタ・アズールLNG(米センプラエナジー)の増設計画が浮上したほか、アフリカのコンゴ共和国でもイタリアの石油ガス会社ENI(エニ)が計画する新規LNG計画が浮上。また、エジプトなども欧州向け輸出の可能性を示唆している。LNGだけでなく、地中海をまたぐパイプラインを通じた、北アフリカから欧州へのガス供給のプロジェクトも動き始めている。

 ただ、欧州が輸入しているロシアのガスをこれらのLNGプロジェクトで置き換えるのは難しい。欧州委員会は今年中にロシア依存度を3分の1に削減することを目指した「新たなエネルギー安全保障提案」を公表しているが、この実現のため追加で4680万トンのLNG確保が必要との試算がある。だが、今年追加される世界のLNG能力は600万トンであり、専門家は「このシナリオの達成はかなり困難」としている。

莫大な投資額と時間

 今後の新規プロジェクトが順調に進展したとしても、25年までのLNG需給逼迫への対応に加えてロシアのガスを代替できるまでには、計画着手から約10年という開発時間と、1件当たり数千億~1兆円を超える投資が必要となる。これらの投資が今後、本当に資金調達が可能となるかどうか、という問題もある。特に今、大きなリスクとして懸念されるのは、ロシアが天然ガス市場に戻ってくる可能性だ。

 欧州はエネルギーの脱ロシア依存を打ち出しているが、ウクライナ侵攻が終結した場合や、ロシアのプーチン大統領が失脚して体制が一新された場合、欧州はそれでも脱ロシアを継続するのか。莫大(ばくだい)な額が必要な新規プロジェクトへの投資を決めたとしても、ロシアが市場に戻って再びパイプラインを通じて天然ガスを供給した場合、LNGプロジェクトが…

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週刊エコノミスト

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