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マンション問題に直面する区分所有法の見直し議論に欠けている視点とは=香川希理

区分所有法がマンションの現実に対応できなくなっている…… CORA/PIXTA
区分所有法がマンションの現実に対応できなくなっている…… CORA/PIXTA

区分所有法の改正議論 「二つの老い」に課題山積 建て替え要件緩和など検討=香川希理

 分譲マンションで建物の老朽化と居住者の高齢化という「二つの老い」が進む中、従来の区分所有法では対応が難しい状況が発生している。法務省、国土交通省、有識者などが参画している「区分所有法制研究会」は昨年3月以降、会議を重ね、建て替え決議要件の緩和などを議論している。ここでは「建物の老い」と「人の老い」に分類し、区分所有法改正に関する議論の状況と今後の課題について検討したい。

 そもそも区分所有法とは、分譲マンションのように一棟の建物を区分して所有権の対象とする場合、所有権が認められる要件や建物、敷地の共同管理など権利関係について定めたものである。分譲マンションという形態が増え始めた1962年に制定された後、管理組合について規定した83年の改正、大規模修繕の決議要件を緩和するなどした2002年の改正などを経て現在に至っている。

 しかし、築50年を経過した分譲マンションもいまや珍しくなくなり、所有者の高齢化に伴って管理組合の運営に支障が生じている。さらに、所有者に相続が発生することで、新たな区分所有者となる相続人との間で、管理組合の合意形成が一段と難しくなっている。区分所有法制研究会では22年度中に論点を取りまとめる方針で、これをもとに政府が法改正案を検討するとみられる。

「建物の老い」 経済条件が最大の壁

 区分所有法制研究会では「建物の老い」に対応するべく、老朽化マンションの建て替えを促進するため、建て替え決議要件を緩和する方向で議論が進められている。具体的には、従来の建て替え決議要件である区分所有者・議決権の各「5分の4」以上の賛成について、各「4分の3」以上に引き下げる方向である。また、所在不明の区分所有者や賛否不明の区分所有者を、決議要件の母数から除外することも検討されている。

 しかし、決議要件の緩和だけでは老朽化マンションの建て替えは促進されない。それは、「決議要件」ではなく「経済条件」が建て替えを阻む最大の壁となっているからである。すなわち、建て替えを進めるにはデベロッパー(マンションの開発業者)の参入が不可欠だが、デベロッパーが参入するかどうかの判断基準は、建て替えによって受ける「経済的利益」に大きく依存する。

 ここでいう経済的利益とは、保留床(建て替えなどに伴って新たに建設された建物のうち、もともとの地権者が取得する床面積以外の部分)の取得面積と、その保留床がいくらで売れるかという価格である。そして、実際には容積率や日影規制によって保留床が生じないことも多く、デベロッパーにとって経済的利益が見込みにくいマンションが大多数である。

 老朽化マンションの建て替えを促進するには、そのような経済条件の悪いマンションをどうするのか、という問題に行き当たる。単に決議要件の緩和だけでなく、建て替えにどのようなインセンティブ(隣接地との共同建て替え制度や税制優遇措置など)を与えるのか、それとも建て替えではなく区分所有関係の解消(敷地売却や取り壊し制度)を進めるのか、も併せて検討する必要がある。

 ◆欠陥判明後の訴訟要件は

“欠陥マンション”に対する訴訟の要件も大きな論点の一つである。分譲時には気付かなかったが、築年数が経過したマンションにおいて、外壁などの共用部分に施工不良が見つかる…

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週刊エコノミスト

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