《危ない円安》経常赤字 私はこう考える4 日本の変革に向けた警鐘だ=岩下真理
有料記事
日本の経常収支の推移を暦年単位で見ると、2011年の東日本大震災を起点に変化し、現在は輸出で稼ぐ経済構造ではなくなっている。11年当時は原子力発電所が停止となり、その代替として火力発電所の稼働率が上昇、燃料となる原油や液化天然ガス(LNG)の輸入が増加した。
その結果、原油を主体とするエネルギー価格が上昇すると、輸入額が大幅に増加し貿易赤字が続くようになった。11年当時は供給網の混乱が、日本の生産に大きな打撃を与えたことも記憶に新しい。
当時と現在の共通点は、原油価格の上昇と供給制約だ。2月24日にロシアがウクライナに侵攻後、解決の糸口が見えないまま、原油価格の動きは想定以上に速く、高止まりしている。加えて今回の特徴は、(1)地政学リスクが高まる前から、コロナ禍の供給制約で物価上昇が持続、(2)原油以外の資源価格も上昇(グリーンフレーション)、(3)まだ新型コロナウイルス感染症が収束していない……などの複合的要因で、インフレが持続していることだ。複合要因のインフレが持続している間は、日本では貿易赤字が持続している可能性が高いとみる。
円安メリットは小さい
その一方で、21年の経常収支では、第1次所得収支の黒字幅が19年に次ぐ大きさとなり、それ以外の貿易収支、サービス収支、第2次所得収支は全て赤字だ。第1次所得収支の内訳は、証券投資(外国証券への投資で得る利息)と直接投資(海外子会社からの受取配当)で、両者ともに年間で10兆円超の投資収益を計上している。
これらは外貨のまま海外で再投資されるケースが多く、為替に影響を与えにくい。かつて輸出で稼いでいた時代とは異なり、円安のメリットは薄れつつある。資源高が長期化する中で貿易赤字が続くことに覚悟は必要だが、第1次所得収支の黒字で補うことができれば、経常赤字の定着を回避できるだろう。
また、新型コロナの世界的な収束に伴い、国境を越え…
残り681文字(全文1481文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める