経済・企業

《危ない円安》過去の遺産で食いつなぐ「債権取り崩し国」への道=末広徹/鈴木皓太

インバウンドが消えた大阪市内の繁華街(2021年6月)
インバウンドが消えた大阪市内の繁華街(2021年6月)

国際収支 過去の遺産で食いつなぐ「債権取り崩し国」への道=末広徹/鈴木皓太

 日本の実質GDP(国内総生産)はコロナ前を回復していない。感染の「波」のたびにさまざまな日本経済の問題点が浮き彫りとなっているが、そのような中でも「国際収支の発展段階説」は着実に進んでいる。

「国際収支の発展段階説」とは、一国の経済発展に伴う貯蓄と投資のバランスの変化をサイクルとして捉えたもので、対外的な資金の流れとしての国際収支構造の変化を説明するものである。1950年代に経済学者のクローサーやキンドルバーガーによって提唱された概念だ。表に示されるように、一国の経済が成熟していくにつれて「貿易・サービス収支」「所得収支」「経常収支」「資本(金融)収支」が変化していく。

貿易は大幅赤字に

 コロナ前の日本の例として2018年のデータを見ると、「貿易・サービス収支」はプラス0・1兆円(小幅黒字)、「所得収支」は同19・4兆円(黒字)、「経常収支」も同19・5兆円(大幅黒字)、「資本(金融)収支」はマイナス20・1兆円(大幅赤字)だった。このため日本は、(4)の「未成熟の債権国」に該当する。

 ただし、「貿易・サービス収支」の黒字は非常に小幅であった上に、原発停止でエネルギーの輸入が増加した11~15年だけでなく、19年も赤字になっており、日本が(5)の「成熟した債権国」になる日は近いといわれていた。

 コロナ後の21年になると、「貿易・サービス収支」はマイナス2・5兆円(赤字)、「所得収支」はプラス18・0兆円(大幅黒字)、「経常収支」はプラス15・4兆円(黒字)、「資本(金融)収支」はマイナス10・6兆円(赤字)となり、「成熟した債権国」の特徴がすべて当てはまっている。さらに、22年はロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇で、経常収支が赤字となる月が目立っており、日本は(6)の「債権取り崩し国」といえる状況になりつつある。

 ここからは22年の経常収支の状況を展望したい。

 22年の「貿易・サービス収支」は赤字が続く可能性が高い。ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が大幅に上昇したが、これはエネルギーの純輸入国である日本にとって貿易収支の悪化要因となる。

 加えて、ウクライナ問題を受けて世界経済の悪化は不可避な情勢であり、日本から海外への輸出の鈍化による貿易収支の悪化も懸念される。ウクライナ侵攻後の商品価格(原油1バレル=115ドル)や為替動向(1ドル=120円)、国際通貨基金(IMF)による世界・日本の成長率見通しなどを加味して試算すると、22年の貿易収支はマイナス17・7兆円程度になると見込まれる。

 また、サービス収支の改善も見込みにくい。コロナ禍でインバウンド(訪日客)消費がなくなり、コロナ前までサービス収支の増加要因となっていた旅行収支が大きく落ち込んだ。インバウンド消費の取り込…

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