《危ない円安》エネルギー確保 「市場」と「自主開発」の二刀流で平時と有事の波に備えよ=庄司太郎
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日本は石油と天然ガスが自給できない。このことは戦前、戦後を通じて、日本の最大の弱点でもある。
1941年、米国による同年6月の対日石油輸出制限により、日本は戦争に突入したが、じつは39年にエジプト公使の横山正幸と商工技師の三土知芳が、サウジアラビアを訪問し、初代国王アブドルアジズと石油獲得のための交渉を行っている。だが、同国はすでに米国と親密な関係を築いていたため、交渉は不調に終わった。歴史に「if」はないが、戦争は回避できたかもしれない。
LNGの長期売買契約
日本が石油・天然ガスを賄うためには、産油・ガス国の資源権益や生産プロジェクトに参加し、産出する原油・天然ガスを引き取って輸入する「権益ソース」、コモディティー化した原油・石油製品、天然ガスを、市場を通して購入する「市場ソース」の二つの方法しかない。
「権益ソース」は石油の場合、海外の油田開発権益(権利)を取得し、かつその国との関係を強化し、その国の国営石油会社などと長期購入契約を締結して、原油の安定確保につなげる。これが自主開発原油という手法だ。現在、日本の総輸入原油・ガスの40・6%(2020年度)がこの形態の権益分となっている(図)。エネルギー基本計画では、これを30年に50%以上に増やすとしている。
天然ガスの場合、日本は全て液化天然ガス(LNG)による輸入で賄っている。天然ガス開発では、需要先の電力、都市ガス会社や商社による長期売買契約の締結が、大型融資(プロジェクトファイナンス)の前提条件で、長期売買契約の期間は通常10~20年程度。たいていは「テーク・オア・ペイ条項(買い主は契約数量以下の買い取りでも契約数量の代金を払う)」と「仕向け地条項(荷揚げ場所を定めて第三者への転売を認めない)」が、契約内容に含まれる。日本勢は昔からこうした不利な条件をのんで契約してきた経緯がある。だが、このお陰で日本の電力・都市ガス会社は、LNGの長期安定確保を実現し、20年まで世界1位のLNG輸入量(約7500万トン)を確保してきた(21年は中国が1位)。
有事では市場は使えない
天然ガスの長期安定確保は今日まで続いているが、石油は90年代以降、コモディティー化が急速に進んだことで、自主開発にこだわらなくても、「市場ソース」を通じて調達することが可能になった。04年に石油公団が廃止されたのも、一つにはこうした国際的な流れが背景にある。
石油開発は「1000本井戸を掘って3本当たれば成功」といわれるように、簡単ではない。シェールオイルも含めた最近の技術進歩は著しいが、それでも調査・開発は10年単位で、成功しても現地政府とのハードネゴシエーションが必要だ。どの国も自らの資源を安易に開発させてはくれない。経済協力の見返りや欧米メジャーや中国企業とてんびんにかけられることもざらだ。
サウジアラビアのアラビア石油(日本企業…
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週刊エコノミスト
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