経済・企業

《危ない円安》購買力維持と分散投資の実践を=重見吉徳

経常赤字 私はこう考える2 購買力維持と分散投資の実践を=重見吉徳

 筆者は、以前から「2020年代はインフレの10年」と打ち出している。米中対立や経済格差の是正、気候変動対策、SDGs(持続可能な成長目標)、中国の所得上昇や労働力人口の減少、主要国の政府債務拡大──。我々が普段耳にする、これらの長期的なテーマはいずれもインフレを示唆している。

 言うまでもなく、ウクライナ問題は米中対立や反グローバル化の縮図だ。今後は、世界経済の分断が進み、国防費の増加や資源の囲い込み、ローカリゼーション(国内への生産回帰)を通じて、インフレを持続的にするとみられる。

 日本の貿易収支は今後も1次産品や中国からの輸入品の価格上昇で赤字が定着するだろう。円相場は、しばしば所得収支を含む経常収支で考えられるが、所得収支は海外への再投資に充てられる分も少なくない。必ずしも円転(円への交換)されるわけではなく、貿易収支の赤字に伴う円売り圧力を相殺するには十分ではない。

 また、そうした実需の円売りが予見される中、民間が過去に積み上げた直接投資や証券投資など対外債権について、日本の企業や投資家が売却することはないだろう。仮に政府が「円安でインフレが進むのは困る」と表明したとしても、民間が海外資産を進んで売却し、円安を防いでくれるわけではない。むしろその逆だ。

 他方、国防や経済、資源確保など各方面の安全保障を考えても、財務省が外貨準備として保有する米国債に手を付けることは難しいだろう。さらに、日銀は政府債務をマネタイズ(収益化)し続ける必要があり、金融引き締めはできない。むしろ円安が進み、ドル金利が上昇する中、日銀首脳は「円安がプラス」との口先介入で、利回りを指定して無制限に買い入れる「指し値オペ」まで実施した。

 日銀は、今この時もさらなる物価上昇を目指している。これは「通貨の番人」たる日銀が「まだ気が付いて…

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週刊エコノミスト

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