《ウクライナ戦争で知る歴史・経済・文学》NATO「漂流」状態から結束へ=広瀬佳一
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NATO再燃 ロシアと“間接的に戦う” 「漂流」から強力な結束へ=広瀬佳一
ロシアのウクライナ侵攻直後から、北大西洋条約機構(NATO)は四つの側面でめざましい活躍をしている。それは、(1)米欧の政治的連帯の誇示、(2)中・東欧加盟国の防衛態勢強化、(3)空中警戒管制機(AWACS)による情報収集、(4)ウクライナへの武器輸送支援──である。NATOはロシアと直接戦闘こそしていないが、「間接的に」戦っている。そうしたNATOをプーチン大統領は敵視し、侵攻直前の演説でもNATO拡大を「根源的な脅威」と呼んでいた。
しかしNATO拡大は、決してロシアを無視して進められたわけではない。また、構成国が増えたNATOは、結束を誇るどころか、実は加盟国の脅威認識の違いや防衛負担の格差から、ウクライナ侵攻前までは漂流しつつあった。
もともとNATO内でロシアを明確に脅威とみなすのはバルト3国、ポーランドなど少数派で、多くの国は安全保障上の課題をテロ、難民問題としていた。さらに2017年にトランプ米大統領が登場すると、欧州加盟国の軍事負担の少なさを痛烈に批判してNATOはもはや「時代遅れ」と断定するなど、同盟は漂流の兆しを見せていた。19年にはマクロン仏大統領による「NATOは脳死」発言もあった。
プーチン氏の被害妄想
冷戦後のNATOの最初の拡大は、厳密にいえばドイツ統一による旧東独部への拡大であった。1980年代末から90年代初頭にかけて、ベーカー米国務長官、コール西独首相やウェルナーNATO事務総長らは、NATOの管轄範囲は東独には拡大せず、中・東欧への拡大は検討課題となっていないとしてソ連を説得し、統一ドイツのNATO残留を決めた。
プーチン氏はこのことを根拠に、西側はNATO不拡大の約束を破り、今やウクライナまでをNATOに入れようとしていると主張する。しかし、最新の研究によると、ベーカー国務長官らの発言についての議事録はなく、協定や取り決めなども存在しないことが分かっている。
そもそもNATO拡大は、米国がロシア封じ込めのために一方的に行ったものではない。この点は非常に誤解されており、プーチン氏を批判する場合でも、返す刀で米国がNATO拡大をしたことにも責任があるとされることが多い。しかしNATO拡大とは、加盟希望国側の申請によってのみプロセスが開始されるものなのである。
冷戦後の中・東欧へのNATO拡大を巡っては、防衛負担増大への懸念や、民主化を推進するロシアを刺激することへの危惧から、米国内でも反対論が少なくなかった。そこでクリントン政権では、加盟申請のあった中・東欧のうち、ポーランド、チェコ、ハンガリーの3国に絞ることを支持し、99年にNATO拡大が実現した。その後の拡大でも、ロシアは激しい反発をすることもなく11カ国が加わり、加盟国は30カ国となっている。
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週刊エコノミスト
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