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《防衛産業&安全保障》 ロシア動向の機密開示に踏み切った米国の大転換の背景とは=小谷哲男
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情報戦 ロシア動向の機密開示へ 米国の大転換に深い教訓=小谷哲男
ロシアによるウクライナ侵攻の3カ月近く前。2021年12月3日付米紙『ワシントン・ポスト』は、米情報機関の報告として、「ロシアが22年早々にも17万5000人規模の部隊によるウクライナ侵攻を計画している」と報じた。ロシア軍がウクライナとの国境近くの4カ所に部隊を集結させている詳細な衛星画像とともに掲載。その4日後に米露のオンライン首脳会談が開かれるタイミングだったが、これは米政府が機密情報を積極的に開示することで、他国の行動を制約する新たな情報戦の始まりであった。
首脳会談ではバイデン米大統領がロシアのプーチン大統領に対して国境周辺に集結するロシア軍の撤退を要求し、もし侵攻すれば厳しい制裁を加えると警告。一方、プーチン氏は部隊の集結や侵攻計画を否定し、逆に北大西洋条約機構(NATO)がウクライナ周辺で軍事活動を活発化させ、緊張を高めていると批判した。
その後も米情報機関はメディアを通じてロシア軍の動向の公開を続けた。具体的には、ロシアがウクライナ東南部のドンバス地方で「攻撃を受けた」とでっち上げる「偽旗作戦」を準備していること、ウクライナ人の拘束・殺害リストを作成していること、侵攻開始が2月16日に計画されていることも暴露した。
ロシアは15日に部隊を一部撤退させると発表したが、米国は実際には再配置であるとロシアの発表内容を否定。24日に開始された侵攻は、米国が事前に予測していた通りの部隊規模と多正面作戦で行われ、米情報機関が正確にロシア側の動向を把握していたことが証明された。
侵攻計画を遅らせた
3月8日の議会公聴会で、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は「ロシアによる偽情報に基づく軍事作戦を防ぐため機密を解除して情報を開示する取り組みが非常に重要だと確信している」と証言した。
ロシアは表向き米情報を否定せ…
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週刊エコノミスト
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