《超円安サバイバル》抑えるべきはインフレ?長期金利? 政府と日銀に「ズレ」=熊野英生
有料記事
円安めぐり「ズレ」 選挙に向け「悪い円安」止めたい政府 日銀は「円安辞さず」=熊野英生
先進国では最下位級の独歩安に陥っている「円」をめぐり、日銀と参院選を前にした政府との間に微妙な「ズレ」が生じている。物価上昇を巡って、これ以上の円安によって輸入インフレの圧力がかかることを良しとするかどうかの見解の相違である。
鈴木俊一財務大臣は、足元で急速に進む円安を「悪い円安」と言い切る。対する日銀の黒田東彦総裁は、「急激な円安は望ましくない」と言う。では、緩やかな円安ならば歓迎できるのか。
政府は、4月26日に物価対策を発表した。円安そのものに歯止めをかけるものではなく、物価上昇ですでに痛みを感じている人々に対して、給付金を配る内容であった。ガソリン価格の上昇に対しても、25円の補助を35円に広げる手当てをした。
だが、ガソリン・灯油・軽油・重油の4油種だけに補助を付けても、物価上昇全体への抑制には限界がある。家計にとっては電気代やガス代の方が負担はずっと大きい。電気代の上昇を抑制すれば、家計だけではなく、企業にも恩恵が渡る。代わりに、電力会社に支給する補助金は莫大(ばくだい)な金額になることを覚悟しなくてはいけない。
政府が日銀に「待った」も
こうした物価対策を政府が発表した直後の4月28日、日銀は長期金利の変動の上限を0.25%に抑えるために、毎営業日にわたって「指し値オペ(公開市場操作)」を実施するという方針を発表した。指し値オペとは、国債価格が0.25%に相当する金額を割り込みそうなとき、価格が下がらないように買い支える市場介入である。日銀は、国債価格が下落せず、入札を実施して応札が見込めないときは、この指し値オペを実施しない。
この方針が28日に発表された直後に、ドル・円相場は円安方向に一気に動き、一時1ドル=131円台をつけた。日米長期金利差がより拡大するという予想が強まったせいである。今年3月以降の対ドルでの円安はかなり急激だ。
日銀と政府の認識のズレを、どう考えるべきなのだろうか。日銀は円安を止めるつもりはなく、物価は上がり続ける。政府は物価上昇を歓迎していないものの、日銀を通じて円安を止めることはあえてしないでいる。これについては、中央銀行の独立性を尊重するという考え方で、政府が日銀と距離を置いているという見方ができるだろう。
しかし、今後、円安が進んでいけ…
残り1121文字(全文2121文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める