経済・企業

《ドル没落》基軸通貨なき時代のユーラシアは人民元で決済?=加谷珪一

中国発の地殻変動

 各国の金融引き締めで貿易の重要性が増す中、通貨のパワーバランスの鍵を握るのが中国だ。

ブロック経済化で台頭する人民元

世界から消えるドルは数百兆円相当=加谷珪一

 ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、基軸通貨の概念が変わる可能性が出てきた。東西冷戦が終結した1990年代以降の世界経済は、グローバル化が進み、基軸通貨であるドルの地位もより強固になった。だが、米中対立やウクライナ侵攻によって、世界経済のブロック化が急ピッチで進みつつある。全世界統一の市場が成立しなくなれば、当然のことながらドルの地位も大きく変わらざるを得ない。

中露が経済で接近

 戦後の世界経済は米国が作り上げたものである。第二次世界大戦をきっかけに、米国は当時の基軸通貨だった英ポンドからその地位を奪い取り、国際金融の主役に躍り出た。米国はドルと金をリンクさせた上で、ドルと各国通貨の交換比率を決定し、ドルは世界の基軸通貨となった(ブレトンウッズ体制)。この仕組みはあまり長続きせず、米国の国際競争力の低下やベトナム戦争による財政悪化などが重なり、米国から金が流出。ドルの価値を維持できないと判断した米国政府は71年8月、金とドルの兌換(だかん)を一方的に停止し、ブレトンウッズ体制は崩壊した(ニクソン・ショック)。

 これによってドルの地位は一気に低下すると思われたが、世界経済は意外な方向に進んだ。80年代にレーガン政権が行った規制緩和によって、世界経済のグローバル化が進展。米国の輸入が拡大したことで、決済通貨としてのドルの価値はむしろ上昇した。突出した消費国として米国が輸入を通じて世界にドルを供給し、そのドルが米国の金融市場に還流するという、今の国際金融システムの枠組みが出来上がった。

 近年、実体経済の面で中国の影響力が拡大しているものの、中国の貿易も多くがドル決済されるなど、米国の通貨覇権が揺らぐ兆しは見られなかった。ところが、近年、国際経済の基本的な枠組みを大きく変える出来事が相次いでおり、従来の常識が少しずつ変化している。

 きっかけとなったのはトランプ政権による中国敵視政策である。ニクソン政権による米中国交回復以降、米国にとって中国は交渉相手という位置付けだったが、トランプ政権はその方針を転換し、両国は事実上の貿易戦争に突入した。バイデン政権も基本的にはトランプ政権の外交方針を引き継いでおり、米中分断が加速している。

 図1は米国と中国の貿易シェアの推移を示したグラフである。米国は18年から21年にかけて、対中貿易のシェアを3.5%落とし、中南米のシェアを2.3%拡大させた。一方、中国は米…

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週刊エコノミスト

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