経済・企業

《ドル没落》金本位、原油本位、次は何本位? 対露制裁でほころぶ通貨体制=藤和彦

ペトロダラーの死角

 ドルを基軸通貨に押し上げた原油などの国際取引において従来の常識が覆ろうとしている。

石油を通じたドル覇権を揺るがすサウジの反乱、ロシアの反撃=藤和彦

 3月中旬、世界の石油業界関係者に衝撃が走った。米有力紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)が、「サウジアラビアが中国への原油輸出の一部をドル建てから人民元建てに変更している」と報じたからだ。

 3週間前の2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻。世界中の耳目が凄惨(せいさん)な戦争の映像にくぎ付けになっていた時に、アラブの盟主から米主導の世界経済秩序への反乱を意図した弓矢が放たれたかもしれない。

 WSJによると、サウジ側は、人民元建ての原油先物取引を開始し、国営石油会社サウジアラムコによる原油価格形成のモデルに加えることも検討しているという。いわば「ペトロユアン」の創設だ。サウジの中国向け原油輸出は全体の25%超を占めており最大の輸出先。「人民元の国際化」を目標に掲げる中国側の提案で交渉は6年前に始まった。のらりくらりと続いた両国の交渉が急速に進展したとすれば、背景にはサウジ王室が、バイデン米政権に不満を募らせていたことは想像に難くない。

 原油埋蔵量で実質世界最大のサウジと最大の原油輸入国の中国が人民元建てで取引を始めれば、基軸通貨ドルの礎を形成してきた「ペトロダラー」体制が揺らぎ、現在の国際通貨体制に多大なインパクトを与えることは確実だ。

真の基軸通貨に

 サウジ王室とドルが通貨覇権を維持してきたことには深い関係がある。ニクソン政権は1974年10月にキッシンジャー国務長官をサウジに派遣し、「王家の保護を約束する見返りに原油輸出を全てドル建てで行う」ことに合意。3年前の71年8月にニクソン政権はドルと金の交換を停止し、その後のドルの為替相場の下落に直面したが、金の代わりに原油をアンカー(最後の支え)にすることでドルの価値安定を図った。これがペトロダラーの始まりである。

 ドルが現在のような本当の意味で基軸通貨になったのは冷戦終結以降のことだ。冷戦の勝者となった米国は、エネルギーや穀物をはじめ世界の貿易全体の安全を保障してくれる強い味方となった。歴史上初めて「世界の警察官」となった米国への信頼がドルの価値を支えた。それが現在も続いている。国際通貨体制は「米ドル本位制」にほかならない。

 かつての金と同じ役割を担うようになったドルは究極の価値保蔵手段となり、旧ソ連を継承したロシアや中国をはじめ、米国とは友好関係にあるとはいえない国々にもドルは外貨準備の対象として選好されてきた。

外貨準備凍結は劇薬に

 ところが、ロシアによるウクライナ侵攻に対する制裁措置として、3月初頭にロシアが外国の中央銀行に保有する外貨準備を米欧日の中銀が凍結。3000億ドル(約39兆円)相当が引き出せなくなった。米主導の制裁措…

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週刊エコノミスト

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