経済・企業

《ドル没落》デジタル通貨がもたらす「銀行革命」=房広治

近未来の通貨

 決済機能と信用創造を分離することで銀行は本来の業務が強化できる。

金融危機は「過去の遺物」に。デジタル通貨導入の神髄=房広治

 デジタル通貨に関する研究や報道が活発化している。しかし、その内容と導入後の劇的な変化について正しい理解が広がっているとは言い難い。議論を有意義に進めるには、デジタル化の定義と意義を社会が共有する必要がある。

 21世紀に先進主要各国で本格化した放送のデジタル化では、移行措置としてアナログ放送と併存する時期があった。日本では2012年にアナログ放送が終了した。

 通貨のデジタル化は、紙幣・硬貨による「アナログ通貨」と、おカネを電子情報化して流通させるデジタル通貨が「混在しない状態」と定義すべきだ。通貨をデジタル化することで決済が即時に行われるようになる。アナログ通貨ではこれができない。

 紙幣・硬貨がなくなれば現金輸送車は不要になる。その分、二酸化炭素(CO2)排出量が削減され温暖化対策にもなる。

 しかし、通貨のデジタル化は、現金輸送車がなくなることの環境効果やコスト削減を上回る重要な変化を金融政策と市場にもたらす。それは、大手金融機関が破綻した場合の危機が波及する範囲と処理コストの最小化が可能になることだ。1990年代後半に、旧日本長期信用銀行など国内の大手金融機関が相次いで破綻した金融危機や、08年9月に起きた「リーマン・ショック」のような事態は、デジタル化によって過去の遺物になるだろう。

ECBは金融安定に関心

 21年9月、欧州中央銀行(ECB)は「デジタルユーロ・チーム」を発足させ、同年12月から民間のIT会社と面談を始めた。デジタル通貨のプラットフォーム(技術基盤)企業(GVE)を経営する筆者も面談に呼ばれた。

 ECBが関心を示したのは、「ファイナンシャル・スタビリティー(金融安定化)」が、通貨のデジタル化によって確保可能かどうかという点だった。

 大手金融機関が破綻した際の危機の連鎖的な波及(ドミノ効果)の測定が可能かどうか、預金者や取引先企業などの資金の引き出しが起きる「取り付け騒ぎ」を通貨のデジタル化によって防止できるかという点であった。

 リーマン・ブラザーズは6390億ドル(当時で約66兆5000億円)の資産と6130億ドルの負債で破綻。その後の金融危機によって、米国政府は08年から12年までに1.8兆ドルもの公的資金を投入したと試算されている(米非営利公共組織の「責任ある連邦予算委員会」より)。

 破綻処理が不可避にもかかわらず、想定の被害額が甚大で当局者が破綻をちゅうちょするような、「トゥー・ビッグ・トゥ・フェイル(大…

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