経済・企業

《ドル没落》古代アテネとアメリカは似ている? 「金融帝国」消滅で起きること=田代秀敏

金融帝国の落日

 世界を金融の力で制した古今の2帝国は、時空を超えた類似性を見せる。

古代アテネに見る米国の未来 覇権の乱用が同盟国の離反招く=田代秀敏

 米国は金融帝国である。米国は国内法を制裁対象国へ適用して、自国の金融システムの使用を禁止し、ドル決済を不可能にする。それだけでなく、制裁対象国と取引する第三国の企業を米国市場から締め出すことで、広範な国々に制裁への参加を強制する。

 広範な国々を単独で支配する国が「帝国」であるなら、自国の通貨と金融システムとを武器として広範な国々を支配している現在の米国は「金融帝国」である。

 米国は慢性的な財政赤字国であるが金融帝国であるので、自国通貨建て国債を外国に販売することで膨大な資金を外国から調達し、世界最大の軍事力を地球の隅々から宇宙空間まで展開し、金融帝国の支柱としている。

 事実、米国債の外国による保有残高は、1949年末に29億ドルであったのが2022年3月に4兆677億ドルへ膨張した。それと並行して、米国の年間の軍事費は、1949年に141億ドルであったのが2021年に8010億ドルへ拡大した。

 金融帝国の通貨は経済的実力以上に評価され流通する。実際、米国の国内総生産(GDP)が21年に世界全体の23・9%を占めたのに対し、国際決済銀行(BIS)が3年ごとに行う外国為替市場の取引調査によれば、21年4月の1日平均の取引額6兆5950億ドル(約838兆円)のうち、ドルを相手方とする取引は44%を占めた。さらに世界各国の外貨準備の約6割はドル資産である。

古代の金融資本主義

 古代ギリシャのアテネは、現在の米国のような金融帝国をエーゲ海に築いた。

「アメリカ金融帝国」は「アテネ金融帝国」の現代版であると思えるほど、二つの金融帝国は時空を超え見事に重なる。

 実際、古代ギリシャは現代の世界へ直結している。デモクラシー(民主制)は古代ギリシャが起源であり、古代ギリシャの1000近いポリス(都市国家)の多くを巻き込んだペロポネソス戦争を客観的に描こうとした「最初の歴史学者」の名は、現在の国際政治学の概念である「トゥキディデスの罠(わな)」に使われている。それは、「新興国アテネ」が「覇権国スパルタ」と衝突し敗北したというストーリーを現在の中国と米国との関係に重ねようとする議論だが、実際の古代ギリシャの歴史はまったく異なるものだった。

 エーゲ海・黒海の沿岸地域は当時の世界の経済最先進地域であった。前600年ごろに現在のトルコ西部にあったリディア王国で世界で最初に鋳造・流通された硬貨(金属貨幣)が、ギリシャ本土へ前6世紀後半に伝播(でんぱ)すると広く受け入れられ流通し、各ポリスで独自の硬貨が鋳造された。

 各ポリスでは政治、司法、観劇の参加者に報酬が硬貨で支給された。アゴラ(広場)に市場が開かれ農産物や工業製品が硬貨を代金として販売された。小作料も硬貨によって支払われ、約束手形を含む信用慣習が普及した。

 前483年にアテネの勢力圏内のラウレイオンで大銀鉱が発見され、アテネは硬貨を大量に発行し、他のポリスでも流通させた。

 アテネには「他…

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