経済・企業

格差拡大ユーロ圏 対露制裁で低下する成長率=橋本択摩

欧州

 欧州中央銀行(ECB)が7月の政策金利の引き上げを発表し、欧州で国債が売られている。特に高債務国イタリアなどで国債の利回り上昇が目立ち、欧州債務危機が再燃する可能性もある。

金融の分断と伊右傾化 ガス供給途絶のリスク=橋本択摩

 フラグメンテーション(金融市場の分断化)──。以前、欧州債務危機時に幾度となく耳にしたこの言葉が今、欧州経済を取り巻くリスクとして再びよみがえっている。ユーロ圏の消費者物価上昇率が今年5月に8.1%と過去最高を更新する中、ECBは6月9日の理事会で、7月1日に量的緩和政策を終了することを決定したほか、7月21日に予定される次期理事会で政策金利を0.25%引き上げる方針を示した。

 エネルギー需給の逼迫(ひっぱく)が続くなどインフレの高止まりが長期化するとの見方が強いことから、ECB理事会の決定後、高債務国であるイタリアなど南欧諸国の国債金利が上昇、ドイツ連邦債との利回り格差が広がっている(図1)。

高まる南欧債の上昇圧力

 2012年7月、スペインやイタリアにも広がった債務危機を前に、当時のドラギECB総裁が「必要なことは何でもやる」と発言してから丸10年がたつ。15年3月にはユーロ圏の国債などを大量に購入する量的緩和政策を開始するなど、危機沈静化に向けて「ドラギ・マジック」が繰り出された。その量的緩和も間もなく終了する。今後、金融引き締め局面に入る中、脆弱(ぜいじゃく)な環境下にある南欧債に対処するツールが求められている。

 こうした中、ラガルドECB総裁は6月の理事会後の記者会見で、「ユーロ圏の分断を避けるために新しい手段を導入する可能性がある」と述べたが、それがどのような「マジック」なのか、明らかにはなっていない。

 南欧諸国の国債金利が上昇する中、ECBは6月15日にも臨時理事会を開催し、今後、コロナ対応で購入した保有資産のうち、償還期限を迎える資産について南欧債を買い入れるなど柔軟性を持たせて再投資を行う方針を示した。しかし、分断回避のための新しい手段については語られていない。

 財政面も厳しい状況だ。コロナ禍で深刻な経済の打撃を受ける中、EU加盟国は景気下支えのため積極的な経済対策を実施。その結果、20年の政府債務は大きく膨らみ、ギリシャの政府債務残高(国内総生産〈GDP〉比)は200%に達し、イタリアも同150%を超えるなど、南欧諸国やフランスなどは軒並み欧州債務危機時を上回る水準まで悪化している。

 加えてウクライナ危機後、各国は電気料金の抑制、中小企業への財政支援など、エネルギー価格高騰への対応が急務となっている。さらに、防衛費の増額、エネルギーの脱ロシア化に向けた再エネ投資、ウクライナ難民および復興支援など、各国予算に対する財政拡大への圧力は高まる一方だ。

来春の伊総選挙に要注意

 政治リスクへの注意も怠るべきではない。欧州ではエネルギーや食料品の価格高騰が物価上昇率全体を押し上げている(図2)。その結果、EU各国では家計購買力が低下し、政府に対する不満が膨らんでいる。

 6月12日および19日に行われたフランス議会選挙では、…

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週刊エコノミスト

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