対中貿易で巨額赤字のインド 池田恵理
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国内製造業が弱いインドは、中国からの輸入に大きく依存している。巨大経済圏にこのままのみ込まれるのか、注視が必要だ。
中国からの直接投資も増える方向
10月8日号に続く本連載の第2回は、インドと中国の関係について解説したい。コロナ禍や米中貿易戦争などを受け、世界的に脱中国やチャイナプラスワンへの動きが加速してきている。インドも近年、更に中国への経済依存度が高まるばかりであり、こうしたうねりの中にいる。一方で、サプライチェーンの再構築先として名前が挙がるなど、むしろ、台頭する重要なプレーヤーとして、注目と期待が高まってもいる。
インドは死者を出すような国境紛争が発生したことも相まって、中国に対し外交・安全保障上の深刻な懸念がある。だが、更に中国との付き合いを拡大したいインドビジネス界からの圧力や直近の「Economic Survey 2023~24」(国家予算発表直前に財務省から出される経済概況を記した年次報告書)で中国との経済関係において、規制緩和を示唆したことなどから、中国を巡る議論が活発化している。
インドは世界一の人口規模や経済発展に伴う国民の収入増加に伴い、巨大市場として魅力があるといわれている。しかし、こうした需要を満たすことは、現在の国内産業では容易ではなく、輸入に依存しているのが内実であり、貿易赤字が拡大の一途をたどっている。貿易パートナー上位10カ国のうち、アメリカを除く9カ国と貿易赤字を抱えており、特に、対中国では群を抜いている。23/24年には850億ドルの赤字を計上し、 全体の貿易赤字の約35%を占める最大の懸念事項である。19年に中国を含むRCEP(地域的な包括的経済連携)交渉から離脱したのは、こうした懸念が念頭にある。
最大品目は電気製品
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インド商工省のデータによると、電気機器と電子製品、機械類・部分品及び付属品(HSコード[貿易品目の国際分類番号]で84と85類)が輸入額の約53%を占め、対中国赤字額のシェアのうち一番大きい。生産連動型推奨策(PLI)などを通じて、国内の製造業を強化し、中国依存から脱しようとしているものの、国内生産製品の競争力が非常に弱く、製造技術や必要な生産資源の確保も難しい。そのため、企業にとっては、世界的に見て高い関税を払っても、輸入した方が利益が出る構造になってしまっている。
品目別の全体的な輸入に関しては、商工省のデータによると、21/22年~23/24年の平均で、石油・石炭・液化石油ガスなどの鉱物性生産品(同27類)が全体の約35%弱を占め、同84と85類が合わせて約18%と続く。前者は、23/24年には輸入が減少したものの、21/22年~22/23年の伸びは36%である。これはウクライナ戦争の勃発で経済制裁の対象となったロシアに歴史的な恩義を感じているほか、安い原油を調達できるという経済的メリットもあり、同国から輸入を拡大したためだ。
一方で、21/22年~22/23年にはインドからの同27類輸出が約40%拡大しており、これは欧州などへの迂(う)回(かい)輸出が増加したためと見られている。こうした背景もあり、ロシアからの輸入により、23/24年には対中国に次ぐ約630億ドルの貿易赤字を計上した。
ただし、ロシアとはルーブルとルピー建てで支払いを行っており、ドル等の外貨準備高への影響がほぼなく、輸入品目からも競合相手にはなりにくい。
政府は戦略的分野におけるFDI(直接投資)について、自動ルート(インド中央銀行や政府の事前承認を必要としない)を設け、投資拡大を目指してきた。一方で、…
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週刊エコノミスト
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