脱ロシア 欧州が苦悩する「天然ガス」=編集部
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「米国人の生活を逼迫(ひっぱく)させてまで、ウクライナや欧州に天然ガスを供給して、彼らを助ける必要があるのか」
エネルギー事情に詳しい国際ビジネスコンサルタントの高井裕之氏は、米国からこんな声が上がることを懸念する。エネルギーの脱ロシア依存を進める過程で、欧州で不足する天然ガスを米国が供給することで、米国内の天然ガス価格を急上昇させ、米国民の不満を高めているからだ。
ウクライナ侵攻で、ロシアへの経済制裁を強める欧州は、エネルギーの脱ロシアを急ぐ。ロシア産石油の輸入を年末までに9割削減すると、欧州連合(EU)が決めた。次の焦点は、EUがロシアに約4割を依存する天然ガスをどこから調達するかだった。
そこで、増産余力のある米国のバイデン大統領が欧州向けの液化天然ガス(LNG)輸出を大幅に増やすことを表明し、欧州の脱ロシアを後方支援するとした。
しかし昨年夏以降、天候不順に伴う再生可能エネルギー不足や脱炭素の強化から天然ガス需要が欧州を中心に世界規模で急増。ガス価格の上昇を招いたが、そこにロシアへの経済制裁が加わり、日本や中国などとのLNG争奪戦に発展し、さらに上昇圧力を強めた。
天然ガスの指標である「オランダTTF」は昨年6月の1メガワット時当たり20ユーロ台から今年3月には一時、200ユーロへと急騰。足元でも115ユーロで推移する(図)。
高井氏によると、米国の天然ガスの指標である「ヘンリーハブ」は1年前の100万BTU(英国熱量単位)当たり3ドル台前半から6月には同9ドルを突破。足元でも7ドル台後半で推移している。
イランのガスを渇望
「シェールガス事業者はどんどん井戸を掘って、天然ガスを生産すれば大もうけできるからいいが、世界的なLNG需要の高まりを受けたガス価格の上昇に米国人が巻き込まれる格好だ。天然ガス価格の上昇は電気代にも波及する。ただでさえ物価高に不満を募らせており、1…
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週刊エコノミスト
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