米FRBが覚悟した「景気後退」という痛み=鈴木敏之
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タカ派色強めるFRB
米連邦準備制度理事会(FRB)は当初、景気を冷やすことなくインフレ率を2%に引き戻す計画だった。しかし、高進するインフレを前に「着陸には痛みを伴う」と発言するなど、タカ派色を強めている。
「軟着陸」諦めたパウエル議長 景気後退入りは不可避か=鈴木敏之
パウエルFRB議長は、景気や資産価格の強い調整を回避しつつ、インフレ率を目標の2%に引き戻す軟着陸「ソフトランディング」を断念した。インフレ抑制には痛みを伴うと発言し、着陸の際には衝撃、揺れがあっても良い着陸があるとして、「ソフティッシュランディング」を目指しだしている。だが、はたしてその成算が持てるのかに疑念がある。
米連邦公開市場委員会(FOMC)が指標とする米個人消費支出(PCE)物価指数のコア指数は前年比4.9%(4月)という高さである。コアから除かれるガソリン代、スーパーマーケットでの食料品の価格は、さらに値上がりが激しく人々はインフレの苦痛を強く感じている。インフレはとても許容できないものとなっているのだ。
インフレ率が高いことの問題は、その質の悪さである。当初は、コロナ禍でサプライチェーン(供給網)が混乱することで生じた供給制約だったため、時間の経過とともに解消する期待があった。ところが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーをはじめとする商品市況の上昇、中国の都市封鎖による新たな供給制約と、ショックが続いた。
さらに、次の問題の広がりが見えた。まず、労働需給の逼迫(ひっぱく)である。コロナ禍で2199万人が職を失ったが、その復職が進まず、労働参加率が上がっていない。コロナ禍対応の財政支援で失業保険が手厚過ぎて、就労が控えられていたのだ。その支援が期限切れとなって、復職が進むという見方があったが、復職の勢いは強いものではなかった。求職者1人に何件の求人があるかが、労働需給逼迫の指標となるが、その数字は2件弱だ。
異次元の労働需給逼迫
2019年は雇用情勢が非常に良く、完全雇用といわれたが、その時でも、その数字は、1.2件であった。つまり、今の労働需給の逼迫は異次元のものといっていいだろう。そして、この比率に遅行して賃金が上昇している。アトランタ連銀の集計する賃金上昇指標(トラッカー)は、5月に6.1%まで上昇している(図1)。
直近の5月の米消費者物価指数(CPI)でみると、供給制約が緩むことで、これまでは価格が下がっていた中古車価格が上昇した。またこれまでの住宅価格の上昇で、帰属家賃が前月比0.5%上昇している。これは、この後、コア指数の押し上げの遠因となる。
インフレ面でさらに悩ましい問題として、期待インフレ率の上昇がある。たとえサプライチェーンの混乱が物価上昇の原因で、それに金融政策が対処できるものではないとしても、高いインフレ率が続くと、期待インフレ率が上がってしまう問題…
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週刊エコノミスト
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