円の独歩安がはらむ現実と将来=荒武秀至
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止まらない円安
日米金利差の拡大と日本の貿易赤字拡大を背景に、円の独歩安が止まらない。
際限ない円安は国力低下の表れか
FRB利上げ停止で急激な円高も=荒武秀至
円安が止まらない。今年3月には1ドル=115円台であったドル・円相場が、6月半ばには一時1ドル=135円台と約20円もドル高・円安が進んだ。背景には、「真逆の日米金融政策」と「日本の貿易赤字拡大」がある。
インフレが高進する米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)が年末にかけ利上げを重ねてインフレ抑制を図るのに対し、日銀は金融緩和を粘り強く続ける姿勢を示し、日米金利差が急拡大している(図1)。FRBは来年初頭にかけ3%台半ばまで利上げを続ける一方、日銀は低金利維持が予想されるため、日米金利差はさらに拡大し、年末までドル高・円安トレンドが続きそうだ。
他方、「貿易赤字拡大」も円安要因として今後も作用しそうだ。日本はエネルギー資源を海外からの輸入に頼っているため、資源価格の高騰で輸入金額は膨らむ。
年末に1ドル=140円
国際的な価格指標であるニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格は年初に1バレル=76ドル台であったが、6月には一時、同123ドル台まで上昇した。これに連動してあらゆる商品価格も跳ね上がったために輸入金額が輸出金額を上回り、日本は貿易赤字国に転落した。貿易黒字の時は輸出代金として受け取ったドルを円に替えるため円高圧力がかかるが、逆に貿易赤字になると輸入超過なので、輸入製品に支払う外貨調達ニーズが発生する。そのため、円売り・ドル買い需要に伴うドル高・円安圧力が常態化する。
また為替相場には、貿易不均衡を是正する機能が備わっているため、日本の貿易赤字が拡大すると、その後も1年程度は円安圧力がかかる傾向がある。これは円安が進み、外国人からは日本製品が安くみえ、海外からの購買意欲が増し、日本からの輸出数量が増えることで貿易赤字が縮小するまで円安圧力が続くためだ。
このように日米金利差と為替需給の両面から、今後もドル高・円安傾向が見込まれるが、そのメド値はどの辺りだろうか。約20年前の2002年1月末につけた1ドル=135.15円を一時超えたため、次は1998年8月の1ドル=147.66円だろうか。あるいは黄金分割といわれる手法では、固定相場制の1ドル=360円から11年10月末の円最高値1ドル=75.35円までの23.6%戻しである1ドル=142.52円もメドであり、年末ごろに1ドル=140円台でドル高ピークを迎えるとみている。
日米インフレ率格差から試算される適正ドル・円相場(購買力平価)は足元1ドル=91円であり、実際のドル・円相場は4割も円が売られ過ぎだ(図2)。第2次石油危機で米国が高金利政策をとった1980年代初頭もドル高へ乖離(かいり)したが、今回はそれをはるかに上回る。さらに「円全面安」が実態で、年初から6月14日までで、主要31通貨のうち、対トルコ・リラとアルゼンチン・ペソでしか円高になっていない。
実態は日本売り
根底には「日本の国力低下」が…
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週刊エコノミスト
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