データ収集の原則にお国柄 全数調査か行政記録の抽出か=黒崎亜弓
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統計の各国事情
各国の統計システムはその歩みに規定される。日本は戦後の成功体験があったがゆえに時代適応が遅れた。2000年代以降は過渡期にある。
1940年代型で21世紀を迎えた日本=黒崎亜弓
日本の統計は第二次大戦後、占領国である米国の助言も受けて構築された。農林水産省が農業、通産省(当時)が製造業に卸小売業、と各省庁が所管業界に対して全数調査や対象を抽出した標本調査を行い、それを組み合わせれば国全体を捉えることができた。
「良いものができたために半世紀保ててしまい、1940年代型の統計で21世紀を迎えた」。法政大学経済学部の菅幹雄教授はこう表現する。
製造業が中心だった時代、サービス業は製造業に付随し、景気も連動していたから事が足りた。しかし、次第にサービス業が拡大するにつれ、その把握が課題になる。サービス業は省庁をまたがるため、全体を網羅する調査はなかった。製造業は工場ごと経理を行うが、サービス業は店舗単位で経理を行わないことが多く、調査は難しい。職人技で各種統計をつなぎあわせていたが、90年代以降、それも限界を迎える。
抜け落ちたサービス業
2000年代に入ると全産業をカバーする調査の必要性が唱えられた。全産業(農業除く)に対し大規模な経済センサスを行っていたのが米国だ。
菅教授は00年代、米国に10回以上通って米商務省センサス局の担当者に聞き取り調査を行った。分かってきたのは、経済センサスが重厚な仕組みのもとに成り立っていることだった。センサス(全数調査)を行うにはまず、全国すべての企業とその事業所を把握したビジネスレジスター(事業所母集団データベース)が整備・更新されていなければならない。
菅教授は米国の知見を総務省統計局に提供。07年に成立した改正統計法にビジネスレジスターの整備が盛り込まれ、09年に経済センサスが始まった。5年に1度、基礎調査で従業員数や事業所の内訳を、活動調査で売り上げや費用を聞く。工業統計、商業統計は廃止された。
個人事業者は税情報で
経済センサスで把握が難しいのが個人事業者だ。店舗であれば目視できるが、マンションの1室では分からない。そこで…
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週刊エコノミスト
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