専門人材育成のための統計庁構想=肥後雅博
有料記事
GDP改善
経済動向を捉えるうえで重視されるGDP(国内総生産)は、精度に問題がある。統計作成はルーティンワークでは済まない。専門家による課題解決が求められる。
「安かろう悪かろう」を脱するために=肥後雅博
「建設工事受注動態統計」(建設受注統計)をはじめとする度重なる統計の不祥事によって、公的統計の信頼が損なわれている。実は、統計が抱える課題は不祥事に限らない。
建設分野の統計に対しては、「GDPの公共投資は、四半期別速報値から年次推計の確報値に改定される時のブレが大きすぎて、景気対策の効果の分析ができない」と批判が絶えない。東日本大震災の復興需要が発生した2012年は、速報値では2桁の高い伸びだったが、その後の改定で伸びは消えてしまった。20年には、GDP推計に用いられる「建設総合統計」の建設投資額が10年もさかのぼって大きく下方修正された(図1)。これでは過去に行った分析は意味がなくなる。
政府は、「行政施策や経済政策は確たる証拠に基づいて行うべき」との考え方(EBPM)を提唱しているが、日本の統計はそれを担保する精度を実現できていない。本稿では、建設統計を例に、「よりよい」統計をつくるには何が必要なのかを考えていきたい。
その記入は不可欠か
建設受注統計は、全国1万2000の建設会社に対し、受注額500万円以上の土木工事案件1件ごとに、受注額、発注者、工事の場所、種類、完成時期の一覧の提出を求めている。工事受注額を工事期間に配分し、各期のGDP計上額を算出するためであるが、建設会社の報告者負担は極めて重い。
しかし、土木工事の約8割は公共事業であり、工事案件情報は発注者である国、地方自治体などが保有している。公共工事データベースを構築するなり、地方自治体から報告を求めるなど行政が持つ情報を活用すれば、建設会社は公共工事の報告が不要となり、記入負担が大きく軽減される。公共工事の捕捉漏れがなくなるなど統計のカバレッジ(対象範囲)が大きく改善し、GDPの公共投資のブレも一掃されることが期待できる。
何でも民間企業に調査を行って統計を作成しようとするやり方を改め、行政が保有する情報を最大限活用して統計を作成する方向に見直すべきではないか。
回答から全体を導くすべ
建設受注統計から得られる建設投資額の精度が低いのは、統計の対象となる母集団(建設業を実際に行っている全ての建設業者)の名簿が整備されておらず、建設会社の回答から建設業者全体の受注額を復元推計できないことが最大の原因である。そのため、国土交通省が作成する「建設総合統計」では、建設投資額に補正率を乗じた値を推計し、内閣府はGDPの建設投資額として利用している。
補正率は、速報時点では3年前の国や地方自治体の決算データに含まれる公共投資額などを基に計算されるが、その後、より直近時点の値に順次修正される。これが建設投資額の大きなブレの原因となる。
これに対しては、国や地方自治体が公表する速報データを利用すればブレを縮小できる可能性があるほか、内閣府自身がGDPの推計方法を工夫することで、ブレを縮小できる可能性も…
残り1261文字(全文2561文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める