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経済・企業 統計クライシス

行政記録のデータ化に踏み出す研究者=黒崎亜弓

経済学×データ

 自然科学に接近するかのような経済学の潮流において、個人レベルのデータへのニーズが高まっている。分析対象は、統計結果からその個票、行政記録へと広がってきた。

税情報のプラットフォーム構築=黒崎亜弓

 2008年、宇宙誕生の謎解明につながる素粒子の研究で、益川敏英さんと小林誠さんがノーベル物理学賞を受賞した。2人の理論を実験で証明し、受賞に導いたのが高エネルギー加速器だ。最先端の大規模な実験設備で、国内外の研究者が共同利用する。

「経済学で加速器にあたるのがデータだ。個人の行動を高い解像度で計測したデータがなければ、良い分析もできない」と、東京大学公共政策大学院の川口大司教授(労働経済学)。東大の政策評価研究教育センター(CREPE)のセンター長を務めていた昨年夏、自治体の税務データを活用するプロジェクトを立ち上げた。

対象すべてを追跡できる

 なぜ、税務データなのか。背景には、世界的なデータと研究をめぐる流れがある。

 経済学の潮流は個人の異質性に着目し、個人の最適化行動を積み上げて全体を捉える方向にある。個人レベルのミクロデータのニーズが高まったが、公的な統計調査で個人・法人が回答した調査票(個票)を研究利用することは、日本ではなかなか認められず、世界に実証面で後れを取っていると懸念されていた。

 00年代に個票の提供が進み、07年の統計法改正で研究利用が制度化された。それでも申請に手間と時間がかかり、回答者が特定されないようデータが匿名加工されることで、思うような分析ができないと研究者は不満を抱える。

 同時に00年代以降、世界で進むのが行政記録情報の活用だ。行政記録とは、国や地方自治体が実務上、集めたデータを指す。課税のための所得や決算、雇用保険はじめ公的保険の履歴などだ。ある集団のほぼ全員分がそろうこと、一人一人を時間軸で追うパネルデータを作りやすいことがメリットと捉えられている。

 研究利用で先駆けたのは北欧だった。というのも、北欧諸国は税率が高い分、納税記録の透明性が高い。相互監視で脱税を防止しているわけだが、そのデータをもとに実証研究が生み出され、欧州諸国は行政記録を分析のためのデータとして整備し始めた。

 一方、連邦制の米国では行政記録は州ごとに管理される。米経済学界は危機感を募らせ、行政記録の利用を図ったほか、企業活動で生まれる民間の業務データにフロンティアを見いだした。

 日本でも昨年、国税庁が税務データの研究利用に向けて動き出した。採択された研究が今年4月から始まっている。研究者を税務大学校の職員に臨時任用して守秘義務を課し、税務大学校との共同研究として情報の保護を図る。

データと分析をバーター

 分析対象は法人税と所得税だが、企業に勤める人たちの所得税は源泉徴収されるため、国税庁だけでは個人レベルの所得データはそろわない。かたや自治体は地方税を徴収するため、住民の個人レベルの所得データを持っている。

 ただ、税務データを匿名加工する作業は、約1700の自治体の多くにとってハードルが高い。

 そこでCREPEのプロジェクトでは、匿名加工のマニュアル…

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週刊エコノミスト

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