ウクライナに加えインドからも届かぬ小麦、16億人に飢餓の恐れ=柴田明夫
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小麦危機が来る
世界の食料庫がまひし、穀物市場は大混乱。16億人が飢餓の瀬戸際にある。
ウクライナで滞る生産と輸出
世界的な供給減で最高値圏続く=柴田明夫
シカゴ穀物市場では、6月に入り小麦先物価格(期近物)が1ブッシェル(約27.2キロ)=10ドル台前半で推移している。3月の過去最高値からは値を下げたものの、大豆、トウモロコシとともに、2008~12年の過去最高水準を見据えた動きとなっている。
市場では、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2月24日以降、ウクライナ産小麦の輸出停滞が世界的な食料危機を招きかねないとの危機感が広がった。ウクライナは「世界の食料庫」と呼ばれるほどの一大産地だからだ。国連世界食糧計画(WFP)は、食料価格の高騰が続けば、途上国を中心に世界の約16億人が飢餓の危機にさらされると警告した。
在庫処分は時間との勝負
すでに戦争も4カ月を経過する中、穀物価格が過去最高値圏に急騰し高止まると見れば、マーケットで需給両面からの調整が進むことになる。
この点、米農務省は6月の世界農産物需給報告で、22/23年度(22年7月~23年6月)のウクライナの小麦生産量が2150万トンで、前年度(3301万トン)比35%減少し、輸出は同47%減の1000万トンになると予測した(表)。トウモロコシの輸出減少(2300万トン→900万トンへ61%減少)と合わせると、ウクライナ産小麦・トウモロコシの輸出減少は、世界の穀物市場に重大な影響を及ぼすことになる。
さらに輸出減少の影響は、ウクライナ国内での在庫の積み上がりという厄介な問題を引き起こしている。通常は年度末に当たる6月の小麦在庫は150万トン程度だが、現在は輸出できない在庫が561万トンと3.7倍に積み上がっている。トウモロコシも通常の期末在庫は100万トン弱のところ、足元では700万トン近くまで急増。7月ごろから収穫が始まるが、攻撃で被害を受けた倉庫もあり、年末には国内で貯蔵できる限度の4000万トンに達する恐れが出ている。
これらが長期滞留在庫となった場合、心配なのは保存性の問題だ。小麦に限らず穀物を保存するには水分を14%以下まで乾燥させる必要がある。水分が多過ぎると、呼吸作用が盛んになって重量が減ったり、自己発熱を起こして変質したり、カビや細菌に汚染されたり、害虫の被害を受けやすくなる。要するにウクライナの農民にとっては時間との勝負でもある。「輸出できなければ次の作付けに必要な資金が得られず、収穫しても置き場がない」と現地の大手農業企業は焦燥に駆られる(『日本農業新聞』6月10日付)。
港から輸出できない穀物については、鉄道で欧州諸国へ輸送する案もあるが、容易ではない。第一に、レール幅の違い(ウクライナは1520ミリに対し欧州は1430ミリ)があり、国境で貨物を積み替える必要がある。第二に、鉄道貨物の…
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週刊エコノミスト
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