脱ロシアができるなら、EUの脱炭素も加速するけれど=大場紀章
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制裁の抜け道
化石燃料の脱ロシアはカーボンニュートラルへの近道となり得る。
「ロシア産」巧みに使う新興国中東頼みの日本は脱炭素が急務=大場紀章
ウクライナ危機でエネルギー価格が高騰する中、原油輸入国の政府は、産油国に対し増産要請をして回っている。一見、世界的な脱炭素のトレンドに反しているかのようであるが、原油輸入国の真意は「ロシア以外の産油国で増産してほしい」ということだ。
今後、西側諸国を中心に化石燃料の脱ロシアが進むと考えると、これまでロシア産の割合が多かっただけに世界全体の消費量は減ることになる。特に、ロシア産の輸入削減を決めた欧州連合(EU)は、ロシア以外の国からの代替供給だけでは足りなくなるため、相当量を主に行動変容での消費削減で対応する計画になっている。
例えば、冬の暖房の設定温度引き下げや、高速道路の最高速度制限などだ。もちろん、EV(電気自動車)化やガス暖房の電化、再生可能エネルギー導入の前倒し、水素エネルギーの導入など中長期的には設備変更によるエネルギー転換が必要となる。結果的に2050年カーボンニュートラルへの道筋は、少なくともEUでは、ウクライナ危機で加速するだろう。
ただし、問題は「脱ロシア」が本当にうまくいくかということだ。ロシア制裁に賛同する西側先進国は、大きな犠牲のもと脱ロシアを実行し、ロシア政府の戦費を少しでも減らそうと試みている。
しかし、ロシアには、さまざまな「制裁の抜け道」があることが指摘されている。例えば、インドはロシア産原油の輸入を最も増やしている。輸入したインドの事業者は、精製した石油製品を米国などに輸出。それらには相当の割合で原材料にロシア産原油が含まれるだろう。しかし、米国には原料の一部に特定の国の資源が使われている石油製品の輸入を規制する法的枠組みはなく、対処できない。
また、ロシア産の資源を積んだ船舶の発信機を切り、人工衛星から見えないようにした上で、洋上で船荷を積み替えることによる産地偽装も既に横行している。米国によるイランやベネズエラに対する経済制裁への対抗措置として、業界で広く行われてきた手法だ。
代替ルートで輸出
こうした抜け道を完全に防ぐことは極めて難しい。特定の国に対し重要な産品を売らない「兵糧攻め」ならともかく、反対に買う側の買い控えで制裁を科すというのは、よほど世界が一丸でなければ、抜け駆けを防ぐのが難…
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週刊エコノミスト
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