中東の増産で原油価格が下がればロシア崩壊=原田大輔
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原油の行方
西側の石油禁輸でも価格高騰が追い風のロシアだが、高値崩壊なら窮地に陥る。
2次制裁発動なら記録的高騰へ
ロシア産縮小で中東産が拡大=原田大輔
ロシアの2019年の原油生産量は日量換算で1127万バレルとソ連時代を含め過去最高(世界シェア約12%)を記録し、輸出は同535万バレルだった。
21年はコロナ禍からの需要回復途上の中、生産量は同1049万バレルに減少した。欧州は原油の53.5%、石油製品(主に重油と軽油等)の65%をロシアに依存している。
図1は、過去2年のロシアの物品別輸出総額の内訳と石油・ガス税収を比較したもの。天然ガスと石炭の輸出が大きく伸びているように見えるが、これは各国際価格の高騰に起因している。稼ぎ頭は輸出総額の約半分を占める原油と石油製品だ。
ロシアの原油・天然ガス田の多くは内陸部にあり、積み出し港や需要地まで長大なパイプラインが必要(図3)で、輸送にコストがかかる。原油はロシア東西がパイプラインで物理的に結ばれているが、天然ガスは東西を結ぶパイプラインがなく、欧州向けとアジア向けで生産地域が分断されている。
さらに、原油・天然ガス田の多くは永久凍土帯にあり、冬季は零下数十度になるような環境で、井戸の凍結を防ぐため、原油を常にくみ上げておく必要がある。このため中東産油国のように、好きな時に増産・減産が実施できる生産コントロールが容易にできない。
ロシアの原油生産量は24~30年ごろをピークに減退すると考えられている。新たな油田開発が喫緊の課題になっているが、可能性があるのは、インフラもなく厳しい自然環境の極北地域、あるいは高度な開発技術が要求される大陸棚や非在来型(シェール層)の油田だ。極北や大陸棚、非在来型の油田開発は多大なコストがかかり、開発推進には国際原油市況が高い水準にあることが不可欠だ。加えて、ロシア石油企業の開発技術は、欧米企業に比べてまだ発展途上段階にある。
欧州向けの9割止まる
また、天然ガスパイプラインによる輸出は、ガスプロムが独占しており、ロスネフチなどの石油企業は、パイプラインによる天然ガス輸出事業に事実上進出できない状況だ。ガスプロムの独占はロシアの石油企業との間であつれきを生んでいる。
欧州連合(EU)は6月3日、ロシア産石油を年内に禁輸する制裁を発動した。ロシア産石油のパイプライン輸入依存度の高いハンガリー、チェコ、スロバキアなどは例外となるが、この制裁によって、欧州が輸入するロシア産石油の約9割が止まる見通しだ。
欧米とG7(主要7カ国)による石油禁輸は、その効果を疑問視する向きもあるが、ロシアにとっては最もダメージが大きく、外貨を稼ぐ虎の子を直撃する。石油禁輸こそが経済制裁の本丸ともいえる。石油換算にすると、ロシアの天然ガス輸出量は石油の約3倍と多いものの、実際の輸出収入は石油の3分の1程度だ。
さらに、欧州はロシア産原油・石油製品の海上輸送に保険・再保険を提供することを禁止する制裁も同時に発動している。
西側の石油禁輸を受けて、制裁に加わっていないインドや中国が、ロシア産原油・石油製品の新たな…
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週刊エコノミスト
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