「分配」を可能にする「成長」へ向けて=青木大樹
有料記事
「キシダノミクス」始動
次の国政選挙まで3年の猶予を得て、岸田政権は経済構造の転換と成長を目指す可能性が高い。
10年で150兆円の脱炭素投資
経済安全保障は経済を刺激=青木大樹
今回の参院選では与党の過半数維持が見込まれ、エコノミストや市場の関心は日本の成長戦略の具体化に移っている。昨年10月に岸田文雄政権が発足して以降、新型コロナウイルス対策やロシアによるウクライナ侵攻への対応、エネルギー価格対策に追われ、主な経済改革を打ち出せていなかった。しかし、岸田政権・与党には次の国政選挙となる3年後の参院選に向け、公約を実現していく十分な時間を確保することができた。この6月に閣議決定された骨太の方針に沿って、岸田首相の経済財政政策(いわゆる「キシダノミクス」)の具現化がついに始まる。
昨年の政権成立当初、「新しい資本主義」によって掲げられた「成長と分配の好循環」は、成長よりも金融資産課税の増税などの分配面の強化が意識されていた。しかし、日本経済の回復が大きく遅れる中、キシダノミクスは成長により原資を稼ぎ出すことで分配が可能になる、として成長を重視する姿勢が明確となってきている。とりわけ、年末の予算編成や税制改正に向け、エコノミストや国内外の投資家の関心は、(1)脱炭素に向けた複数年度の大規模投資、(2)防衛費などの経済安全保障への支出拡大、(3)資産所得倍増計画──に集まっている。
水素、蓄電池に競争力
脱炭素に向けた大規模な財政支出計画は米国やユーロ圏ではすでに打ち出されており、日本は後手に回っていた。しかし、岸田政権は民間セクターからの拠出と併せて、今後10年間に国内総生産(GDP)の3割弱に相当する総額150兆円超の投資を計画している。
また、グリーン経済への投資を賄う「グリーン・トランスフォーメーション(GX)経済移行債」(仮称)の発行も計画されている。政府の力強い後ろ盾があってこそ、日本企業の脱炭素化に向けた行動変容が加速していくだろう。資源エネルギー庁では脱炭素に関連した知的財産権からみた国際競争力を分析しているが、蓄電池、水素技術、パワー半導体などでは日本の潜在的な競争力があるだろう(図1)。
また、経済安全保障の強化は、防衛力の強化だけでなく経済成長を刺激することにもつながる。自民党の委員会では今後5年間で防衛予算をGDPの2%に徐々に倍増させることを既に提案している。宇宙防衛、サイバーセキュリティー、人工知能(AI)やドローンなどの先端技術に対する予算なども積み増される可能性が高いだろう。
さらに、エネルギー安全保障の改善に向けては、政府はロシア産エネルギーへの依存度を引き下げるために、新たなエネルギー供給網の構築を模索している。エネルギー価格の上昇が続く中、企業は省エネ技術を活用したエネルギー費用効率の改善を目指すだろう。
そして3点目に、半導体や…
残り1081文字(全文2281文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める