岸田政権「改革先送り」なら一段の円安=唐鎌大輔
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為替
参院選後の岸田政権の構造改革への取り組みが、円安反転のきっかけとなる。
選挙後の変化を督促する相場に=唐鎌大輔
7月10日投開票の参院選は、本稿執筆時点(6月28日)では与党大勝の予想が優勢だ。岸田文雄政権の路線が国民の支持を得た格好である。この結果が今後の日本の経済・金融情勢にどのような意味を持つのか。特に注目される為替市場への影響を中心に整理したい。
周知の通り、選挙前の岸田政権は対立論点を極力回避し、経済復調に必要と思われる政策課題(入国規制の緩和や新型コロナウイルスの感染症分類のインフルエンザ並みへの見直しなど)に消極的な姿勢を続けてきた。結論からいえば、そうした「成長を諦める」かのような路線を選挙後も続けるならば、円安・株安は続かざるを得ないと考えられる。
過去1年半を振り返ると、日本円や日本株のパフォーマンスは他の海外の通貨や金融資産に比べて劣後してきた印象が拭えない。とりわけ円の弱さは突出しており(図1)、この動きをFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策やウクライナ危機の影響など海外要因だけで正当化するのは難しい印象がある。
円の名目実効為替レート(貿易相手国との取引量で加重平均した総合的な通貨の価値)の下落はあまりにも際立っており、「ドル買い」ではなく「円売り」、言い換えれば日本の政治・経済・金融情勢が円売りの一因となっていると考えるのが自然に思う。実際、円安の起点となった今年3月の名目実効為替レートを振り返ると、ドル相場がほとんど動かない中、円相場は急落していた。
今回の円安を「ドル高の裏返し」と解説する向きは多いが、それは間違いではないものの本質的でもないと考える。やはり日銀の緩和路線に拘泥する姿勢や貿易赤字の累増傾向といった金利や需給に関する材料はもとより、世界的にも異様な入国規制に象徴される「経済より命」路線が経済から活力を奪い、円建て資産離れを引き起こしている可能性は否めないように思う。
動けない状況の日銀
例えば、金利をつかさどる金融政策に関していえば、「経済より命」路線を続けるからこそ成長率が低迷し、日銀が動けないという実情がある。この際、「日本の成長率はもともと相対的に低い」というのは論点のすり替えだ。2020年の新型コロナのパンデミック(世界的大流行)による落ち込みを踏まえれば、地力はどうあれ、21年は反動がなければおかしい。
もっとも、岸田首相は昨年12月6日の所信表明演説で「岸田政権の最優先課題は、新型コロナ対応」と断言していた。実際、日本社会はいまだにマスク着脱の議論に熱を上げている。「経済より命」という点に関し、岸田政権は初志貫徹であり、当初の看板にうそ偽りはない。選挙結果を見る限り、国民もこれを支持している。それが民意ならば仕方ないが、世論が支持しても金融市場はこうした「成長を諦めた国」を評価しない。その象徴が円安そして株安である。事実、外国人投資家は岸田政権発足後、日本株を基本的に売り越している。
株や為替だけではなく、債券市場も試されるだろう。歴史を思い返せば、分不相応な水準に為替レートを固定し、それが…
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週刊エコノミスト
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