米金融政策 景気を犠牲に物価安定を優先=木内登英
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米金融政策
米FRBは物価上昇の抑制を優先する方針を明らかにした。市場では景気後退への懸念も強まっている。
FRBは急速な利上げを継続=木内登英
FRB(米連邦準備制度理事会)は6月14、15日に開いたFOMC(米連邦公開市場委員会)で、1994年11月以来約27年半ぶりとなる、0.75%の大幅な利上げ(政策金利引き上げ)を決めた。政策金利(FF金利)の誘導目標はこれで1.5〜1.75%となった。
FRBは、事前に6、7月のFOMCで0.5%ずつの利上げを示唆していたが、直前に公表された5月消費者物価(CPI)統計が予想外に上振れ、それを受けて金融市場では0.75%の利上げ実施の観測がにわかに高まっていた。FOMCの直前に金融市場がそれを9割程度の確率で織り込んでいたことから、金融市場の期待に沿った形の政策決定を行った方が金融市場に混乱をもたらすリスクを小さくできる、とFRBは考えたのだろう。
ただし、そのことはFRBの金融政策が金融市場の期待に強く影響を受け、政策に催促された、あるいは金融市場に強く誘導された形の決定となったことを意味する。これは、FRBにとっては看過できないものであり、今後に課題を残したともいえる。
3月のFOMCでは0.25%の利上げ、5月のFOMCでは0.5%の利上げ、そして6月のFOMCでは0.75%の利上げと、利上げ幅は加速している。次回7月26、27日のFOMCでは1.0%の利上げ実施、との観測が出かねず、金融市場の観測によって金融政策がかく乱されないよう、FRBのパウエル議長は「0.75%幅の利上げが標準にはならない」とくぎを刺したうえで、「次の7月会合でも0.5%か0.75%の利上げを行う可能性が高い」と述べた。FRBは再び金融政策決定について、金融市場に主導権を握られないよう、情報発信を強化したのである。
23〜24年には利下げ?
FOMC参加者によるFF金利の予想中央値は、22年末が前回3月時点の1.9%から3.4%へ、23年末時点では2.8%から3.8%へと今回大幅に引き上げられた。ただし、24年末の見通しは3.4%、中長期は2.5%となっており、23年あるいは24年にはFRBが利下げに転じる見通しが示されている(表)。
金融市場(FF金利先物市場)では、23年3月ごろにFF金利は3.5%程度まで引き上げられた後に頭打ちとなり、23年後半には引き下げられることが織り込まれている。景気悪化を受けて、金融市場の方がやや早めの政策転換を織り込んでいる。
今回の見通しでは、物価見通しは大幅には上方修正されていない一方、成長率見通しは大きく下方修正された。22年末、23年末の成長率は1%台後半にとどまる見通しだ。このことは、急速な利上げによって景気をある程度犠牲にする、いわゆる「グロース・リセッション」を受け入れながら、インフレ抑制を達成するというFRBの姿勢を表しているだろう。一時的に景気減速と物価上昇率の上振れが共存するスタグフレーション的な状況を一定程度甘受しつつも、最終的には景気と物価の安定を達成することを目指しているの…
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週刊エコノミスト
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