経済・企業

米国との補完進めモノづくり復権を=長内厚・早稲田大学大学院経営管理研究科教授

企業向け製造業、技術力は依然優位

 経済安全保障の機運の高まりで、中国に移してきたモノづくりを日本国内に戻すこと考慮するべきだ。

(聞き手=浜田健太郎/村田晋一郎・編集部)

── 日本の輸出は2021年に過去最高の82兆円で、その大半を企業向けのBtoB製造業が稼ぎ出している。日本の製造業は決して弱くはなっていないといえるか。

■日本は、素朴に技術を探索して作ることが得意だ。技術的に優れているところはまだたくさんあって、BtoBの場合には技術を磨くだけでもビジネスができるところは多い。納入先の顧客企業に対して直接、技術的な優位性を訴求することで取引を拡大して利益を増やせるからだ。

 逆に米国企業は技術が足りない部分をビジネスのノウハウによってカバーすることが得意だ。パソコン大手デルやアップルは、基幹部品はほとんど何も製造していないのに、パソコンやスマートフォンで世界トップクラスのシェアを持つ。中国企業も米国勢と似た面がある。

── 日本は技術的な優位性をビジネスにつなげていく力が弱いということか。

■本来はもっと可能性があるのだと思う。ただ、米国の強みと競合しないことによって、米国と協力関係を構築できているとも考えられる。米国と中国はビジネスの進め方が似ているので経済摩擦が起きている。1980年代には、日米の産業構造が似ていたので貿易摩擦に発展した。いまは、日本の製造業の強みと、米国産業界の強みは相互補完関係にある。近代経済学の創始者であるリカードが19世紀初頭に提唱した「比較生産費説」の考え方に立てば、自分の国が強い点だけを伸ばしていって、後は国際貿易で賄えばよいという考え方は21世紀に通用する考え方だろう。

── 日本と中国は補完関係にないのか。

■現在もそのようになっている。ただ、それが経済安全保障上よいのかというのは別問題だ。

 家電や自動車などさまざまな製品は今後、通信でつながっていく。通信の情報を国が随時、民間企業に対して開示するよう請求できる中国で作っていいのか。自由主義経済と民主主義を堅持してきた西側各国の中で、日本がハイテク製品を製造できることは付加価値になる。日本は国を…

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