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水素航空機の開発で将来の「脱下請け」も=吉川忠行
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航空産業
「日の丸ジェット」の夢は挫折したものの、部品供給では日本企業に存在感がある。飛行機の脱炭素化が新たな成長の種になりそうだ。
ボーイングで増す日本の存在感=吉川忠行
海外では新型コロナウイルス収束後に向けた動きが活発化している。航空業界を見ると、米ボーイングが今年5月に引き渡した旅客機は35機で、17機だった前年同月の2倍を超えて上回った。航空会社によっては、コロナの影響でキャンセルされた“注文流れ”の機体を安価かつ早期に仕入れ、回復する旅客需要の取り込みと、機材更新による運航コスト削減を進める動きが見られる。ボーイングや欧州エアバスの受注も、航空貨物が堅調なことから大型貨物機の次世代機を中心に増加傾向だ。
航空機産業に薄日が差し始めた今、ボーイングの主要サプライヤーである日本の重工各社はどう動いていくのか。ビジネスとエコノミーの2クラス250~300席級の中型機「787」は、機体の構造部位のうち35%を日本企業が担う。400席前後の次世代大型機「777X」では、従来機777と同じ21%が日本の分担だ(図)。三菱重工業と川崎重工業、SUBARU、新明和工業、日本飛行機が参画し、胴体などの製造を担う。
挫折した完成機
777Xは開発遅延により納入開始を2年遅らせ、2025年に初号機が引き渡される計画。5月にオンライン会見を開いた三菱重工の小澤壽人CFO(最高財務責任者)は「当社の事業計画に対する影響は軽微だ。立ち上がってくれればポジティブに効く、というのが正直なところ」と語る。とはいえ、21年度の民間機関連の売上収益は1093億円で、三菱重工全体の売上高(3・9兆円)から見れば微々たる数字だ。
宮永俊一会長は社長時代、ボーイング機の「Tier1事業」(1次請け)について、「レベルを上げていかなければならず、完成機メーカー並みの企画力が必要」と、危機感をあらわにしていた。その中で、子会社の三菱航空機による「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発・製造は相乗効果が期待できると、宮永氏は強調していた。「完成機メーカーが持っていない技術を追求したい。そのひとつが複合材やアルミ、チタンなどの材料技術。合金技術や複合材技術、その組み合わせ方などを駆使して差別化したい」と、既存の機体メーカーが持っていない、素材技術が強みになるとの見方を示していた。
しかし、スペースジェットは20年10月に開発凍結を表明。6度延期されている納期は5月のオンライン会見時も言及なし。米国の飛行試験拠点は今年3月末で閉鎖され、米国で使用していた4機の飛行試験機のうち1機は解体済みと、もはや開発再開は現実的とはいいがたい状況にある。スペースジェットという完成機作りには頼らず、航空機向けの素材技術を追求していく必要性があるようだ。
三菱重工を筆頭に、日本の重工各社の航空機事業は、ボーイングなど米国…
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週刊エコノミスト
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