経済・企業

京都の知・伝統・文化が育んだ世界企業群=柿木拓洋

温故知新

 他社のまねをせず、継続こそ強さと疑わない優良企業を数多く輩出する京都。自信に満ちた姿に、日本の経済人は何を学ぶべきか。

「千年の都」の底力を見よ=柿木拓洋

 京都に本社を置く大手メーカーが業績を大きく伸ばしている。経済担当記者として多くの京都企業を取材してきたが、製品、技術、経営手法、社風などはまさに「十社十色」だ。それでは今なお高成長を続ける強さの源泉は何なのか。

 東証に上場する株式時価総額で比較すれば、京都はいかに豊かな企業が集まる地方都市であるかが分かる。7月7日時点の全国上位100社に入る京都企業は、任天堂(7.5兆円)、日本電産(5.3兆円)、村田製作所(5兆円)、京セラ(2.6兆円)。大企業が集中する東京、大阪、愛知の3都府県を除き、京都府(人口255万人)の規模で時価総額トップ100の企業が複数ある地域は他にない。人口が近い茨城県、広島県、宮城県は該当ゼロ。京都の2倍以上の人口を抱える隣の兵庫県はシスメックス(1.8兆円)の1社だ。

 直近の2022年3月期決算は、京都企業の地力が表れた。新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた前期の反動もあり、特にBtoB企業は大きく躍進した。日本電産、村田製作所、ロームといった電子部品大手に加え、半導体製造装置のSCREENホールディングス、計測機器の島津製作所などが連結売上高や純利益で過去最高を更新した。

 これらの大手メーカーに共通するのが、秀でたトップシェア製品を持っていることだ。村田製作所はスマートフォンやパソコンなど電子機器に欠かせない積層セラミックコンデンサーの世界シェアで約40%を握り、グループの生産数量は年間1兆個に上る。日本電産は精密小型モーター、京セラはセラミックパッケージなどでそれぞれ首位に立つ。いずれも稼ぎ出した利益を「軽薄短小」などの技術開発や生産増強に惜しみなく投じ、他の追随を許さない地位を築き上げてきた。

「我が道」を極める

 京都のものづくり企業には、揺るがない価値基準がある。学生ベンチャーの草分けである堀場製作所の堀場厚会長兼CEOの言葉を借りれば、「ほんまもん」へのこだわりだ。それはつまり、高い技術や知恵で生み出すイノベーションに他ならない。京都で高く評価されるのは独自性であって、多くの企業は誰かのまねや二番煎じを嫌う。

 こうした気風は、「千年の都」が培った一面もあると考える。先頭集団がいない道を進むことは、裏返せば商売敵を作らないことでもあるからだ。老舗がひしめく古都で商いを続けるために「よそ様に迷惑をかけてはいけない」と思うのは、自然なことでもある。

 実際に1944年に村田製作所を創業した故村田昭氏は、京都・東山で製陶所を営んでいた父の「同業者の得意先を荒らすな」という厳命を守り、セラミックコンデンサーにつながる精密特殊磁器にたどり着いた。M&A(合併・買収)の名手…

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週刊エコノミスト

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