投資・運用

インフレ、金利上昇に負けない株投資=芳賀沼千里

投資眼が問われる Bloomberg
投資眼が問われる Bloomberg

インフレに負けない戦略眼 重要性増す「株&分散投資」=芳賀沼千里

 グローバルなインフレ(物価上昇)傾向を強め、中央銀行がその対応に追われる。近年まれな市場環境下での投資戦略を探る。

 コロナ禍による一時的な現象であるといわれたインフレが、長期化している。エネルギー・食料価格に起因する物価上昇は一巡しようが、米国や欧州で賃金が上昇し始めている。経済のグローバル化の鈍化、所得格差是正を目指す経済政策、防衛費増大など構造的な要因が存在しているとみる。来年以降も多くの中央銀行が目標とする2%より高いインフレが続くだろう。

 一方、日本ではエネルギー価格の上昇と円安がインフレの主因であるが、今後、賃金が上昇する可能性がある。過去20年余り、賃金の低迷が日本のデフレ要因であった。多くの女性と高齢者が非正規雇用で働くようになるとともに、経済成長率が低下する中で、年功的な雇用・賃金体制が崩れた。

 ただし、生産年齢(15~64歳)の女性では、日本の労働参加率が2000年の59.6%から21年に73.3%まで上昇し、米国やフランスを上回った(経済協力開発機構〈OECD〉)。賃金が上がらないまま女性や高齢者の参加率をさらに高めることは難しくなり、日本も緩やかなインフレに向かうとみられる。

国債に潜むリスク

 この環境下、どのような投資を行うべきだろうか。

 まず、インフレ局面では安全資産といわれる国債に大きなリスクが潜んでいる。将来の実質購買力の低下である。投資の目的が損失を計上しないことならば、国債はリスクが低いが、将来の支出を賄うことが目的ならば、長期的には大きなリスクが存在する。満期で償還される際、その価値が実質的に目減りして、学校や病院の場合、校舎・研究棟や病棟の建て替え資金が不足する可能性がある。個人の場合、老後に備えて債券を保有していると、海外旅行や孫へのプレゼントを諦めるなど、期待通りの生活を送れないかもしれない。

 日本は1990年代後半からデフレを懸念する環境が続き、低金利にもかかわらず、債券投資の実質リターンが緩やかに上昇している。70年から21年までの実質リターンは年率プラス2.6%である。ただし、物価が上昇した70年代前半や80年代末には、短期間ながら実質リターンがマイナスになった。

 米国では55年以降、クーポン(利息)を再投資して国債(10年)を保有すると、債券投資のリターンが名目で年率プラス5.76%、実質で同プラス2.23%となる(21年、図1)。インフレが進んだ60年代と70年代には実質リターンがそれぞれ同マイナス0.10%、マイナス4.18%であった。さらに、毎年の支出の一部を賄うためにクーポンを再投資しない場合、55年以降、実質リターンは同マイナス3.38%であった。

 また、満期前に売却すると、債券投資で損失が生じるリスクもある。金利水準が低いため、クッションとなるインカムゲイン(利息収入)が小さく、投資リターンはキャピタルゲイン(売却益)に頼っている。クーポンが5%であれば、1年間で価格が5%下落しても、インカムゲインで補えるが、現在、そのような債券は手に入らない。

 インフレ経済では、株式への投資を検討すべきだろう。

 米国の経済学者・トービンの理論に従えば、企業が持つ事業資産の市場価値は、その資産を再び調達するコストと比較されて決まり、均衡状態では等しくなる。インフレにより資産の調達コストが上昇すれば、実物市場で事業資産を調達する、つまり、新しく実物投資を行うよりも、株式市場で企業を買収する方が有利になる。

 年初来、主要国の金融引き締めを受けて株価は世界的に下落した。業績を考えると、短期的には原材料価格の上昇がコスト増加を通じて利益の下押し要因となるが、長期的には価格転嫁や合理化努力でコスト増加を吸収して、企業は利益と配当を伸ばすことができる。長期的な視点に立つと、株式はインフレ局面でも上昇すると期待できる。

安定した株式の配当

 米国では55年から21年まで消費者物価が年率3.6%上昇する中で、S&P500の配当込みリターンが同10.8%であった。日本では70年以降、消費者物価が年率2.3%上昇し、TOPIX(東証株価指数)のリターンが同6.4%である(図2)。日本株の投資リターンは、デフレ圧力が強まった90年代から00年代に悪化し…

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週刊エコノミスト

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