国際・政治

国民国家の枠超えた「全員参加型」で世界秩序の再構築を=寺島実郎

寺島実郎が語る 覇権国なき世界秩序

 内向き志向を強める米国と弱体化するロシア、混迷する中国、リーダー不在の世界秩序を再構築するには何が必要か。寺島実郎氏に聞いた。

(聞き手=浜條元保・編集部)

 第二次世界大戦が終わる前年の1944年に作られたブレトンウッズ体制。これは、米国が主導して構築した戦後の経済金融体制であり、現在まで続く世界秩序の象徴である。通貨切り下げ競争や保護貿易が戦争の一因になったとの反省から、ドルを金と交換できる唯一の通貨とする「金・ドル本位制」を採用。国際通貨基金(IMF)や世界銀行、関税および貿易に関する一般協定(GATT、現WTO〈世界貿易機関〉)を軸とする世界の金融経済体制だ。

 しかし71年、米国が一方的にドルと金の交換を停止すると宣言(ニクソン・ショック)。73年には変動相場制に移行し、ブレトンウッズ体制は終焉(しゅうえん)を迎える。本誌は44年からニクソン・ショックの71年までを「ブレトンウッズ1」とし、71年以降現在に至るまでを「ブレトンウッズ2」とする。

 2020年3月の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻によって世界の分断が進み、日米欧の自由・民主主義国家vs中露を中心とする権威主義・国家資本主義体制の「新冷戦」という捉え方が台頭。イエレン米財務長官は、自由・民主主義的な価値観を共有する国・地域による新たな世界秩序の構築の必要性を説く。本誌はこれを「ブレトンウッズ3」として、国際政治や経済・安全保障に精通する一般財団法人日本総合研究所の寺島実郎会長に意見を求めた。

アングロサクソン同盟

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── 米国は、ブレトンウッズ3を模索しているのではないか。

寺島 米国が第二次大戦後の世界秩序のシンボルとして主導したブレトンウッズ体制の再構築を模索するのは、よくわかる。しかし今、世界で起きている状況を踏まえると、ブレトンウッズ体制の延長というレベルをはるかに超えた次元の議論が必要になっている。

 なぜなら、約100年前の第一次大戦後の秩序やルールが維持できなくなってきているからだ。ウクライナ紛争をにらみながら、民主主義陣営なるグループから世界秩序の再構築を模索する動きが起きるのは当然だが、これはブレトンウッズ3という議論だけでは収まらない。

 第一次世界大戦(1914~18年)が終わった後の世界秩序を大きく踏まえると、ブレトンウッズは、そのフェーズ2だったことになる。重要なのは第一次大戦が終わった後、四つの帝国が崩壊したことだ。当時、世界秩序の一つだったロシア帝国は1917年のロシア革命でソ連という社会主義体制に変わり、ドイツ帝国は敗戦で解体。オーストリア・ハンガリー(ハプスブルク帝国)も、さらにオスマン帝国も崩壊した。

 四つの帝国が崩壊した後の世界秩序を俯瞰(ふかん)すると、アングロサクソン同盟を主導する軸が英国から米国へと移り、そこでブレトンウッズ体制という米国中心の世界秩序ができたことがわかる。ブレトンウッズ体制とは、アングロサクソン同盟の主役交代(英国から米国へ)だった。

 つまり、アングロサクソン同盟は20世紀の秩序の中核だった。21世紀に入って、これが持ちこたえられるかどうか、それを模索するのがブレトンウッズ3という議論だ。

── 日本人として、この議論に参加する時、重要なポイントは何か。

寺島 まず、日本の微妙で特異なアイデンティティーを確認しないといけない。

 1902年から23年まで、つまり第一次大戦が終わり、21~22年のワシントン会議の結果を踏まえて解消されるまで、日本は英国との同盟関係にあり 、この間を生き抜いた。日英同盟をテコに日露戦争を戦い、第一次大戦では恩人であるはずのドイツに襲いかかった。東洋の島国・日本が欧米列強と肩を並べ、戦勝国の一翼を占める形でベルサイユ講和会議に出席、ライジングサンとして世界史の中央に躍り出ようとする姿に米国は脅威を感じた。日本が日英同盟を軸に、アジア太平洋への進出が加速していくことに懸念を抱いた米国は、何としても日英同盟を解消させないといけないという思惑で1921年のワシントン会議に臨み、多国間、4カ国条約の世界に日本を引き込んだ。

 その後、日本は迷走し始める。23年の日英同盟解消から敗戦の45年までの二十数年間は、日本人にとって思い出したくない敗北の歴史だ。51年のサンフランシスコ講和条約で日本は国際社会に復帰。その後、日米同盟を柱に奇跡の復興を遂げた。

 ここでよく考えてほしい。20世紀からの約120年間、前半の約20年間を日英同盟、後半の約70年間を日米同盟で日本は生きてきた。つまり、近代120年のうち90年をアングロサクソンとの同盟で生きた日本は、アジアの中でも異様な存在なのである。

 日英同盟で成…

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週刊エコノミスト

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