年末にも原油1バレル=150ドル超え、天然ガスは奪い合い、余波は石炭にも=岩間剛一
有料記事
対ロシア制裁は容易に解除されそうもなく、長期的にも原油・LNG価格には上昇圧力が働いている。
過去最高の石油需要、期待できない供給増=岩間剛一
原油・天然ガス価格が高騰している。足元では景気後退懸念から価格はピークからやや下落したものの、ウクライナに侵攻したロシアへの経済制裁に加えて、アジアを中心に需要の増大が見込まれる。原油の世界的な指標価格であるWTI先物価格は2022年末にかけ、過去最高値となる1バレル=150ドル超えも視野に入ってくる。
ウクライナ侵攻後の今年3月、WTI原油先物は1バレル=130ドルに高騰し、08年7月以来の高値を付けた。また、欧州とアジア諸国でLNG(液化天然ガス)の奪い合いが熾烈(しれつ)化し、同じ3月には極東アジアLNGスポット価格は百万BTU(英国熱量単位)当たり84ドルの過去最高値を記録。その余波は発電用の石炭にも及び、今年5月に豪州の発電用一般炭スポット価格は1トン当たり425ドルと、これも過去最高値を付けている。
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、20年4月には一時、マイナス価格も付けたWTI原油先物だが、サウジアラビアなどのOPEC(石油輸出国機構)加盟国と、ロシアなど非OPEC加盟国による「OPECプラス」が、日量970万バレルという過去最高の協調減産を開始。景気回復や脱炭素政策により新規油田開発投資の抑制も続く中、原油・天然ガスの一大輸出国ロシアへの制裁が需給の逼迫(ひっぱく)に拍車を掛けた。
WTI原油先物は、世界的な景気後退懸念もあって、今年7月中旬時点では1バレル=100ドル前後に沈静化している。しかし、新型コロナの収束基調を受けて世界の石油需要は増加しており、IEA(国際エネルギー機関)によれば、22年第4四半期(10~12月)の世界石油需要は日量1億40万バレル、23年通年の世界石油需要は日量1億160万バレルと、新型コロナ感染拡大前の19年のレベルを超え、過去最高の石油需要となる(図1)。
米LNG基地で火災
脱炭素化などで先進国の石油需要は伸び悩むものの、中国などアジア諸国では自動車保有台数の増加、石油化学原料需要増もあり、石油需要は大きく増加する。石油に代わるエネルギー源として、水素、アンモニアの開発も行われているが、23年時点では量的にも生産コスト的にも、旺盛な石油需要を代替できる水準にはない。
供給面では、第一にOPECプラスは、今年7月以降は日量64万8000バレルずつの増産を毎月行うこととしているが、ロシアとの協調関係を重視して、バイデン米大統領による追加増産要請には応じていない。イラン、ベネズエラも、制裁により原油生産が滞っている。第二に、西側諸国から制裁を受けて割安となったロシア産原油を中国、インドが輸入を増やす動きがあるものの、全体としてロシア産石油の供給は減少している。
…
残り1395文字(全文2595文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める