穀物高騰は一服しつつ、高値圏で推移の恐れ=小菅努
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穀物の大規模増産が南米で目指されているが、まだ作付け作業さえ始まっていない。今後も高値圏での推移を想定する必要がある。
容易ではないウクライナ代替 景気後退なら値崩れも=小菅努
世界で食料価格の高騰が一服しつつある。国連食糧農業機関(FAO)が発表する食料価格指数は、2022年3月に過去最高値となる159.7まで上昇していたが、6月には154.2まで低下した。6月の前年同月比は23.1%上昇と依然として高値圏にあるが、パニック的な急伸傾向には歯止めが掛かっている。
シカゴ穀物先物相場も高値から大きく下押しされている。小麦相場はロシアのウクライナ侵攻直後の3月に過去最高値となる1ブッシェル=13.11ドルまで値上がりしていたのに対して、7月中旬には8ドル水準まで値下がりしている。これは、おおむねウクライナ侵攻発生前の価格水準に小麦価格が回帰していることを意味する。トウモロコシや大豆相場に関しても同様の値動きになっている。
穀物価格が高値から下落した理由だが、北半球で冬小麦の収穫が始まった影響で、短期需給の逼迫(ひっぱく)感が薄れた影響が大きい。当初、ウクライナ産の代替供給を名乗り出ていたインドでは、記録的な熱波の影響で生産が抑制されたが、カナダなどの生産が順調に進んだことで、「ハーベスト・プレッシャー(収穫期の売り圧力)」が小麦価格の値下がりを促した。
また、原油価格が高値から大きく下押しされたことでバイオ燃料向け需要抑制の思惑が広がったこと、割高なトウモロコシや小麦を家畜の飼料分野で使うことを抑制する動き、世界経済の減速懸念による需要不安、約20年ぶりのドル高環境なども、穀物価格の沈静化に寄与した。これに伴い投機マネーが穀物市場から流出している。
グローバルな食料価格の高騰は、(1)新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)発生に伴う需給バランスのゆがみ、(2)異常気象ラニーニャ現象の発生、(3)ロシアのウクライナ侵攻により黒海からの食料供給に大きな制約が掛かったこと──の3層構造になっている。特に今年の食料価格の異常な値上がりに関しては、ウクライナ危機の影響が大きいが、ウクライナ産の穀物供給を巡る混乱状態は続く見通しだ。
「輸出回廊」予断許さず
ウクライナは、世界の小麦輸出の8%、トウモロコシの13%、ヒマワリ油の47%を担う主要農業国であり、ウクライナ産輸出の正常化なくして、穀物需給環境の正常化は難しい。しかし、ロシア軍がウクライナと地中海を結ぶ黒海の海路をコントロールし、ウクライナ側もロシア軍の上陸阻止のために海岸線に機雷を仕掛けており、穀物輸出が阻まれている。
例年だとウクライナの穀物輸出は毎月600万トン規模に達するが、今年3月は32万トン、6月でも100万トン強にとどまる。今年7月13日のウクライナ、ロシア、国連、トルコの4者協議では、黒海に穀物輸出回廊を設置して共同管理することで一致した。ウクライナ南部オデーサには2000万トン超の穀物が貯蔵されており、今後は同国産小麦の収穫作業が本格化する。輸出環境が正常化すれば国際穀物需給は安定しや…
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週刊エコノミスト
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