経済・企業

日銀の異次元緩和がヘッジファンドとの攻防に勝つこれだけの理由=丹治倫敦

 日銀が金融政策を修正するとの観測が高まっているが、実現することはないだろう。

インフレ抑止に利上げは悪手 指し値オペでも国債残高は急増しない=丹治倫敦

 日銀は現在、日銀当座預金へのマイナス金利適用と、10年国債利回り(長期金利)をプラスマイナス0.25%程度に操作する「イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)政策」を実施している。一方で、日銀が同政策を維持できなくなり、10年国債利回りが0.25%を超えて上昇するとの見方が、海外のヘッジファンドを中心に強まっている。

 ヘッジファンドなどが0.25%付近で国債を売却するのに対し、日銀は金利目標維持のため同水準で国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」を連日実施しており、両者の攻防が続いている。中央銀行の市場誘導にヘッジファンドが挑戦を仕掛ける構図からは、1992年にヘッジファンドが固定相場制の英通貨ポンドに対して売りを仕掛け、固定相場を解消させたポンド危機も連想される。

 だが、固定相場制における通貨の防衛と、YCCにおける金利の上限防衛は根本的に異なる。通貨防衛においては、中銀が外貨準備を原資に自国通貨買いをする必要があり、外貨準備が尽きれば対抗策がなくなる。しかし、YCCの防衛では日銀は自国通貨の円を自ら発行して日本国債を購入するので、購入原資が尽きることはない。日銀にその意思がありながら、金利の上昇を阻止できなくなることは起こり得ない。

円安には効果限定的

 それにもかかわらず、日銀がYCCを修正せざるを得ないという観測が根強いのは、(1)日銀が足元で生じている物価高(インフレ)に対処するため金融引き締めに転じる可能性、(2)国債買い入れにより10年国債利回りを無理に0.25%以下に誘導することにより生じる「弊害」が無視できなくなる可能性──である。だが、これらはいずれも実現しないと筆者は考えている。

 まず、(1)については、確かに足元の消費者物価指数(CPI)の前年同月比の値は、日銀が物価目標とする2%を若干超えている。しかし、海外のように大幅に上回ってはいない上、物価を押し上げる要因はほぼ、食料価格とエネルギー価格の上昇、および円安の三つに集約されている(食料とエネルギーを除く「コアコアCPI」の前年同月比は今年5月がプラス0.8%)。

 このうち、食料とエネルギー価格の上昇については、ウクライナ戦争の影響を含むグローバルな供給制約が原因であり、日本の金融引き締めが対抗策にならないことは明白である。残る円安については、米国が金融引き締め(利上げ)を進める中で拡大した、日米金利差が主因となっている。そのため、円安には日本も同様に金融引き締めで対抗するのは、一見筋が通っているようにも見える(図1)。

 しかし、米国の大幅な利上げに日本が対抗しようと思えば、かなり大掛かりな金融引き締めを行う必要がある。図1の関係性を元にすれば、日米金利差が1%縮小しても、ドル・円レートは1ドル=120円にも達しない可能性がある。また、為替レートは一般的に、長期金利よりむしろ短期金利差に連動しやすいともいわれている。YC…

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週刊エコノミスト

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