国際・政治

脱露で脱化石燃料を加速させるEU 当面はLNG生産増の米国=下郡けい

 エネルギー安全保障の情勢が激動する中、欧米先進国の動向から目が離せない。日本も供給確保に向けた長期的戦略や、原子力の活用検討などが求められる。

長期的には脱炭素化の欧米 ガス投資が座礁資産化の恐れ

 欧州連合(EU)は2019年の新体制発足時から、50年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロとする環境政策「欧州グリーンディール」を目玉政策に掲げてきた。新型コロナ禍を経た今、経済の回復と気候変動対策推進の両立を図る復興計画の中核としており、ロシアのウクライナ侵攻後も最優先事項だ。

 侵攻はエネルギー安全保障としての「ロシア産化石燃料依存からの脱却」の重要性を改めて突きつけた。EUはロシア依存が強く21年は石油27%、天然ガス45%、石炭46%だ。ロシアが代金トラブルで06年と09年にウクライナへのガス供給を一時停止した際、パイプライン下流の東欧などが巻き込まれた苦い経験があるが、価格の安さゆえ脱却が進んでいなかった。

 そこでEUは3月、「REPower(リパワー)EU計画」と銘打つ脱ロシア・脱化石燃料計画を発表。5月には具体的な数値目標も打ち出した。新計画では省エネ、供給の多様化、再生エネ普及の加速を通じ、年内に天然ガスのロシア依存を3分の2まで、30年より「かなり前」に年間消費量を1550億立方メートル削減するとしている。この量は21年のロシア産天然ガスの輸入量に相当する。

 この新計画はEUが21年に策定した、30年の温室効果ガス削減目標である1990年比で少なくとも55%削減を達成するための政策パッケージ「Fit for 55計画」が土台だ。1次エネルギー、最終エネルギー、どちらの消費量でも省エネが加速する(図)。

 課題は天然ガス調達先の多角化や、ガス貯蔵水準の確保だ。ロシアが供給量を絞る状況も続き、短期的な早期の脱ロシア実現には不確実さも伴う。そのような中EU加盟国は今冬に向け、自主的なガス需要15%削減に合意。産業界を中心に節約を呼びかけている。

 一方、米国のバイデン政権でも脱炭素化を目指す政権方針に変化は見られない。しかし侵攻を受け、短期的にはエネルギー価格高騰への対処が…

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週刊エコノミスト

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