脱炭素がもたらす新たなエネ安保の火種=志田龍亮
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脱化石燃料は産業構造や社会構造にまで大きな変化をもたらす。変化をチャンスに変えられるか。
低密度・分散型エネルギーシステムで実現する脱炭素
2022年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻はエネルギー市場の大きな混乱を招き、世界にエネルギー安全保障の重要性を改めて突きつけた。各国ではエネルギーの安定供給が大きな課題となり、例えばドイツではロシアへの依存度を下げるため、液化天然ガス(LNG)輸入も含めた調達の多角化、石炭・天然ガスの戦略備蓄などの検討を進めている。
しかしながら、こうした安全保障意識の高まりは、化石燃料への単純な回帰を意味しているわけではない。欧州委員会ではロシア産化石燃料からの脱却のため、30年の再エネ導入比率の目標を40%から45%へ引き上げに動いている。各国は脱炭素化とエネルギー安全保障の両立を目指しており、ウクライナ侵攻により脱炭素化の流れはより強固となったと見るべきだろう。
需要側の電化や省エネ進む
世界的な脱炭素の潮流が加速する中、日本では50年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ、すなわちカーボンニュートラルを宣言している。
では、カーボンニュートラルへの移行は、具体的にどのような影響があるのだろうか。
三菱総合研究所では日本全体のエネルギー需給構造を模擬する分析モデルを用いて、カーボンニュートラルに向けた国内の50年までのエネルギー需給構造をシミュレーションした。その結果からは、需給構造の変化のポイントとして大きく3点が示された(図1)。
1点目は、再エネを中心とした脱炭素エネルギーによる供給構造への変化である。1次エネルギー供給の全体量は、18年と比べ50年は約半分となっているが、ここでは割合に注目したい。足元では1次エネルギー供給の8割以上を化石燃料が占めるが、カーボンニュートラルが進んだ場合、50年に脱炭素エネルギーが7割を占めると考えられる(図1の左縦軸)。1次エネルギーの供給を元にした電力の供給も再エネが主体となり、再エネの変動性を補うための火力電源も水素・アンモニアなどの燃料代替が進むことで、50年には電力部門からの二酸化炭素排出はほぼゼロに近づく。
2点目に、需要側の「電化」が進む。電化とは家庭、事務所、工場などで使う最終的なエネルギー消費の形態が、化石燃料から電気に切り替わることである。例えば冬場の暖房が石油ストーブからエアコンに替わる、自動車の動力源がガソリン車から電気自動車に替わるといったことが相当する。現状では最終消費に占める電力の比率(電化率)は4分の1程度であるが、50年のカーボンニュートラル達成時には半分以上を占めることになる(図1の中央右にある黄色い縦軸)。
そして、3点目として需要側の省エネが大きく進展する。エネルギー消費の形態として電力は化石燃料よりも効率が良いケースが多く、電化によって省エネも同時…
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週刊エコノミスト
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