経済・企業

「大衆EV」を日本へ投入する中国BYDの底力=湯進

中国でも人気の高いSUVの新モデル「ATTO3」 筆者撮影
中国でも人気の高いSUVの新モデル「ATTO3」 筆者撮影

 新エネルギー車(NEV)専業メーカーとして市場の評価を高めるBYDは自動車業界の黒船だ。

車体から電池、半導体まで供給網持つ強さ

 中国の大手電気自動車(EV)メーカーのBYDは7月21日、スポーツタイプ多目的車(SUV)の「ATTO3」、コンパクトタイプの「DOLPHIN」、セダンタイプの「SEAL」という三つの新モデルを日本に投入すると発表した。日本の「EVバス」市場で7割のシェアを握るBYDは、本丸の乗用車市場で本格的に攻勢をかける。

 BYDは2022年1~6月のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)を含む新エネルギー車(NEV)の販売台数で、米テスラを超え世界首位のメーカーになった。EV性能を左右する車載電池市場でも世界3位の電池メーカーだ(表)。

 22年7月7日時点で、BYDは時価総額で独フォルクスワーゲン(VW)を抜き、首位のテスラ、2位のトヨタ自動車に次ぐ、世界自動車業界の第3位に躍進した。EVメーカーに脱皮したBYDと、脱皮しきれない他の自動車大手との成長期待の差が逆転の背景にあるといえる。

内燃機関車の廃止は初

 BYDは、ガソリンエンジン車とハイブリッド車(HV)の内燃機関車の生産を今年3月から停止し、今後はEVやPHVなどNEVの生産・販売に専念すると発表した。これまで内燃機関車を売ってきた既存の自動車メーカーの中で、実際に生産を停止したのは、BYDが世界初となる。同社の21年の新車販売台数73万台のうち、NEVの販売台数が60.3万台と9年連続で中国NEV市場の首位を維持し、初めて同社の内燃機関車の販売台数を上回った。

 これまで内燃機関車とNEVの2本柱で自動車事業を展開してきたBYDが、専業NEVメーカーに転身する理由は、車載電池、車載半導体から完成車まで次世代自動車産業のサプライチェーンを築き上げたことにある。

 ニッケル・カドミウム電池から事業をスタートした同社は、1999年にリチウムイオン2次電池の生産に着手し、03年には国有企業の西安秦川汽車を買収し、自動車業界に果敢に参入、コストを削減するため、パワートレーンや内外装部品を含めた垂直統合型の生産体制の構築を図っていった。

 05年にEVに組み込まれるパワー半導体「IGBT」を生産開始。08年には寧波中緯半導体の買収を通じて、車載半導体事業に一層力を入れ始めた。10年には日本の大手金型メーカー、オギハラの館林工場の買収を通じて大型プレス部品の技術向上につながった。

 08年以降、ガソリン車では日米欧企業に勝てないと判断したBYD創業者の王伝福が電池技術を生かしてNEVを生産する構想を描いた。同社は独自のPHVシステム「DM(デュアルモデル)」を軸とし、PHV「F3 DM」、個人向けのセダンタイプEV「e6」、EVバス「K9」を相次いで投入し、いち早く中国NEV市場で地位を固めた。

 最も大きなポイントは、プラットフォーム(車体基盤)としてPHVシステムの「DM」が進化したことだ。これがBYDの製品競争力を支える。BYDはDMを使って、中大型高級EVから、中間価格のPHV、小型・低価格…

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週刊エコノミスト

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