国際・政治

中露の肥料支配が穀物高騰の第2波を招く恐れ=柴田明夫

ブラジルでの大豆の収穫作業。ロシアの肥料輸出が停止されれば影響は甚大 Bloomberg
ブラジルでの大豆の収穫作業。ロシアの肥料輸出が停止されれば影響は甚大 Bloomberg

 ラニーニャ現象による世界的な熱波や干ばつもあり、世界の穀物需給の見通しは予断を許さない。さらに肥料原料の偏在問題も重なり、食糧安全保障は深刻な国際問題になりかねない状況だ。

世界の食糧を脅かす真のリスク

 ロシアによるウクライナ侵攻から6カ月が経過する。戦争が長期化の様相を呈するなか、シカゴ穀物市場では6月以降、ひとまず騰勢一服となっている。8月15日時点で大豆が1ブッシェル=14.95ドル、小麦8.01ドル、トウモロコシ6.27ドルと、侵攻前の水準まで急落した。これは、ウクライナ産穀物の輸出が再開されたからだ。

 しかし、これで世界が直面する食糧危機の懸念が消えたわけではない。世界を襲う異常気象がもたらす熱波と干ばつ、そして世界の穀物生産を支える肥料の供給を視野に入れると、世界の食糧危機は第2波に襲われる懸念がぬぐえず、しかも特効薬はないという現実に気付かされる。

 また、肥料供給はロシアと中国に支配されているといっても過言ではなく、ロシアのプーチン大統領はそれを戦略的に利用してくる可能性もある。7月22日、ウクライナ産穀物の輸出が停滞し、世界的な飢餓の拡大が懸念された問題は、ロシア、ウクライナ、トルコ、国連による4者協議が進展し、輸出の再開で基本合意に達した。8月1日にはレバノン向けトウモロコシを輸送する船の第1便がオデーサ港を出発した。

 米農務省(USDA)は8月12日に発表した2022/23年度(22年8月~23年7月)の世界農産物需給報告で、今年度のウクライナのトウモロコシ生産量を3000万トン、輸出1250万トン、期末在庫1207万トンとし、6月の予測から大幅に上方修正した。在庫増加は生産増に伴うものとみられる。だが、これで世界の食糧危機の懸念が去ったと考えるのは時期尚早だ。

 ウクライナ産穀物の輸出再開で、8月時点で待機している船は、トウモロコシを中心に19隻。2万~3万トン級のバルク船で輸出されるとしても50万~60万トンで、足元のトウモロコシ在庫600万トン超からみても焼け石に水だ。しかも、4者合意した翌23日にはロシア軍がオデーサの港湾施設をミサイル攻撃するなど、輸出再開が継続するかどうかも疑問が残る。

熱波、干ばつも深刻

 21年秋から発生したラニーニャ現象(太平洋赤道域の海面温度が低下)は現在も続いており、世界的な熱波や干ばつ、大規模森林火災、欧州での深刻な水不足をもたらしていることも大きな懸念材料だ(図)。米国ではトウモロコシや大豆の主産地である中西部が干ばつ傾向にあり、予断を許さない。

 米農務省は8月の需給報告で、今年のトウモロコシ生産量見通しを3億6473万トンと前月予想(3億6844万トン)から下方修正した。米農務省が6月5日から毎週発表している作物進捗(しんちょく)状況によれば、主要生産18州のトウモロコシの作況指数は、6月5日時点で「優」と「良」を合わせた比率が73%だったが、8月14日時点で57%に低下し、大豆も6月12日の70%から8月12日に59%に低下している。

 熱波が拡大している欧州も7月25日、小麦、トウモロコシなど22年の単収見通しを下方修正した。3月から熱波が続くインドでは、小麦生産の不作懸念から輸出を禁止している。10月から作付けが始まるブラジルでは、穀物生産の8割を輸入肥料に依存しており、肥料価格の高騰がどんな形で影響が出るか懸念が広がっている。

 ウクライナ危機の影響は、ロシアからの肥料供給減少という世界の食糧安全保障を根本から揺さぶる問題として本格化し、穀物価格高騰の第2波の到来を招く恐れも高まっている。

 米国地質調査所(USGS)のデータによると、21年の世界のリン鉱石生産量2億2000万トンのうち、中国が39%(8500万トン)を占め、モロッコ(西アフリカ)17%(3800万トン)、米国10%(2200万トン)、ロシア6%(1400万トン)、ヨルダン4%(920万トン)と、上位5カ国で生産全体の8割弱を占める。カリ鉱石の生産量の3割強はロシア、ベラルーシが占め、リン鉱石についてはロシアは世界第4位の生産国だ。

 戦争の長期化により、世界最大の肥料庫からの供給が物流の混乱(黒海沿岸からの肥料積み出し停止)と経済制裁の影響の両面から途絶えることになれば、世界の農業にとって致命的な影響を受ける…

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週刊エコノミスト

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