インフレ、利上げ、景気失速 懸念材料が多くても米国株はまだ上がる=馬渕治好
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年初から米株価の下落が続いたが、悲観論の大合唱が投資家心理を極度に悪化させていた。
歴史的悲観相場から大脱出
米国の主要な株価指数が6月に底入れし、上昇している。今年の見通しについて結論を述べれば、年末に向けて米国株価の上昇基調が続くと見込んでいる。そう考える背景は、6月までの米株価下落が過度の悲観によるもの、との認識だ。つまり、最近の株価上昇は、米株式市場における過度の悲観から通常状態への修正運動だと位置付けられる。
6月までが過度の悲観状態だったと解釈しているのは、市場では「インフレ懸念」「金利上昇懸念」「景気失速懸念」といった「懸念の詰め合わせセット」が声高に叫ばれていたためだ。そうした悲観論の大合唱が投資家心理を著しく悪化させていたと考える。そうした心理の悪化を測ってみよう。
個人投資家については、全米個人投資家協会がアンケート調査を毎週行っている。個人投資家に、目先の株価が上がりそうか(強気=ブル)、横ばいか、それとも下がりそうか(弱気=ベア)を尋ねて、それぞれの回答の比率を各水曜日までの集計で公表するものだ。
そのブルからベアの比率を引いた値が「ブルベア指数」として個人投資家の心理を示している。ブルベア指数は今年4月と6月、マイナス40ポイントを超える弱気となった(図1)。これほどまで個人投資家の間に悲観心理が広がったのは、リーマン・ショックを受けた株価下落時の2009年3月以来となっている。
機関投資家については、バンク・オブ・アメリカによる月次調査が参考になる。7月時点では、機関投資家の全投資資産に占める現金の比率は6.1%。これはリーマン・ショック時の5%台を上回り、2001年10月のITバブル崩壊時以来の高水準だった。直近8月では5.7%と、株式等へじわりと資金が戻り始めたことがうかがえる。
ここまで市場が極度の悲観に陥っていたため、経済などの環境が大いに順風とまでならなくとも、「普通」の状態であると投資家の認識が改まれば、株価が大幅に回復する展開になっても不思議はないわけだ。
踏みとどまる景況感
実際の経済環境を点検すると、インフレ懸念については、日々目に見える国際商品市況をみると、エネルギーではWTI原油先物価格は、今年3月と6月には終値ベースで1バレル=120ドルを上回る高騰を示したものの、最近では100ドルを下回って推移することが多くなり、90ドルをも割り込む局面も目に付く。銅などの工業用原材料や、小麦などの穀物も、先物価格が下押しを鮮明にしている。
米国の物価指数も、例えば8月10日に発表された7月の消費者物価指数は前年同月比8.5%上昇となり、6月の9.1%上昇を下回って株式の買い材料となった。まだ90ドル前後の原油価格は高いし、消費者物価上昇率が8%を上回っている状況は、かなりのインフレだといえる。それでも米株価が上昇したことは、6月までのインフレ懸念がいかに行き過ぎていたのかを示していると考える。
米国の金利上昇懸念については、長期金利(米10年国債利回り)は6月半ばに3.5%手前でピークを打ち、足元では3%を下回って動いている。金融政策面では、インフレが前述のようにまだ沈静化はしていないため、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げがまだ継続しよう。
そうした利上げが景気に与える悪影響を心配する向きも多かった。中立金利(景気を過熱も冷やしもしない金利水準)という概念があり、FRBはそれが2.5%程度だとしている。それに対し、7月までの利上げで、政策金利(フェデラルファンド金利)の誘導目標の上限がようやく2.5%に…
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週刊エコノミスト
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