米中対立が「正義vs.正義」にまで先鋭化しないための選択肢=三尾幸吉郎
有料記事
米中とは一線を画す中立な第三勢力の構築が、世界秩序と安全を確保する道だ。
民主主義もいろいろ、欧米型に中国型に
日中国交正常化から間もなく50周年を迎える。50年前の世界は東西冷戦時代で、自由主義陣営の盟主だった米国と社会主義陣営の盟主だったソビエト連邦が一、二を争う経済大国として君臨し、中国の存在感は薄い(図1)。
その東西冷戦が1990年前後に米国の勝利で終結すると、世界一の経済力・軍事力・情報力・科学技術力を有する米国が唯一の超大国として、国際秩序の在り方を決める「パクス・アメリカーナ」の時代となった。それから30年を経た現在、世界では中国が米国に比肩する力を持つようになった。
米中の拮抗
改革開放(78年)で経済発展を遂げた中国は、国内総生産(GDP)で世界第2位の17兆ドル(約2330兆円)と、米国の23兆ドルの4分の3に達し(図2)、国際ドル(購買力平価)ベースではすでに米国を上回るなど経済力を高めた。
軍事力においても、米国の軍事情報サイト「グローバル・ファイアパワー」は中国の軍事力を米国、ロシアに次ぐ世界第3位と評価、北斗衛星導航系統という独自の衛星測位システムを整え、米軍がGPS(全地球測位システム)を使った情報戦を展開しても、それに対抗できる体制を築くなど、米国を脅かす存在となった。
科学技術力においても、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が公表した「科学技術指標2022」では、論文数でも注目度の高い論文数(Top10%補正論文数とTop1%補正論文数)でも米国を上回り世界一となった。量だけでなく質の面でも目覚ましい発展ぶりである。
そして経済力・軍事力・情報力・科学技術力いずれの面でも米国を脅かすようになった中国は、パクス・アメリカーナの現状(Status Quo)に不満をつのらせている。
米国に反発する途上国
中国が現状に不満な背景には、米国が「中国の特色ある社会主義」を敵視し、その存在意義を認めようとしないことがある。
バイデン米政権は21年12月、日本や欧州などの首脳を招いて民主主義サミットを開催し、中露との関係を「民主主義(Democracy)」と「専制主義(Autocracy)」の闘いと位置づけ、民主主義国の連携強化を呼びかけた。民主主義を「正義」、専制主義を「不義」とした「正義vs.不義」の二項対立に持ち込み、「欧米型民主主義」への信認を高めようとしたものと見られる。
これに対し中国は異を唱えた。民主主義サミットが開催された同じ21年12月、中国の民主主義と題する白書を発表した。「中国の民主主義は人民民主主義であり、人民が主人公となることは中国の民主主義の本質と核心である」としたうえで、「民主主義は各国人民の権利であり、少数の国の専売特許ではない」として、米国が欧米型民主主義を他国に押し付けるのは内政干渉であり、各国がどのような民主主義を選ぶかは自由であるべきだと主張、「自由の国」を自負する米国を皮肉った。
また「人民民主独裁」を憲法で定める中国にとって専制主義は「不義」ではなく「正義」だ。特に中国の特色ある…
残り1385文字(全文2685文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める