経済・企業

中国は「中所得国の罠」に陥り米国を超えられないだろう=津上俊哉

中国の高層マンション街。不動産バブルのひずみが蓄積している(2016年10月、河北省秦皇島市)Bloomberg
中国の高層マンション街。不動産バブルのひずみが蓄積している(2016年10月、河北省秦皇島市)Bloomberg

 不動産バブルに「暗黙の政府保証」など、高度成長の陰で「富の配分のゆがみ」が蓄積。3期目に入る習近平体制を経済危機が襲うだろう。

不良債権問題、回避は不可能に

 中国共産党は7月28日に開いた中央政治局会議で、公約にしていた2022年5.5%成長を事実上諦めたと各メディアが報じた。これは、上海で3月末から約2カ月間続いたロックダウン(都市封鎖)など、習近平指導部が徹底的に推し進めたゼロコロナ政策の帰結である。ただ、数字合わせのために「毒を飲んで渇きを癒やす」ことにしかならない景気刺激策は採らないと、ある程度自制が働いているともいえるだろう。

 一方、この政治局会議の直前には省長(各省のトップ)や国務院の部長級の幹部数百人を集めた会議が開催され、習国家主席が秋の第20回党大会で打ち出す施政方針について講話している。要約を見て驚いたのは、この1年間に内外情勢が激変したのに、昨年春に発表した「第14次5カ年計画と2035年までの長期目標」をそのまま今後5年間の施政方針にするつもりらしいことだ。

色あせた「勝利の予感」

 第14次5カ年計画は20年中に骨格が定まった。その頃の中国のムードはどうだったか。

 湖北省武漢で発生した新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込み、短期で経済を回復させたと、パンデミックを総括。同じ頃、トランプ大統領の米国ではコロナ死者が数十万人規模に達していた。多くの中国人が「中国の体制は米国より優れている」──。かつて仰ぎ見ていた米国との距離が年々縮まり、「経済規模で追い抜くのも遠い将来ではない」と、勝利の予感めいたユーフォリア(多幸感)に浸っていた時期だ。

 だがその後、国内外の情勢が急激に悪化した。国内総生産(GDP)の3分の1近くを稼ぐ不動産は空前の落ち込みだ。22年上半期の住宅販売は、面積が対前年同期比26.6%減、金額では31.8%減、新規着工面積は35.4%減、土地仕入れは48.3%減と、公式統計でも惨憺(さんたん)たる成績だった。

 消費もゼロコロナ政策のせいで不振が続いている。上海ロックダウンの後も各地でオミクロン株感染が散発して消費が戻らない。中国の躍進の象徴だったアリババグループ、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)などIT大手は、彼らの情報操作力強大化に不安を覚えた党と政府の猛烈な締め付けで業績が急落、大規模な人員削減を行うという。若者の就職が多いITなどサービス産業の雇用吸収力の低下と国内各地でのロックダウンにより、中国における若年層(16~24歳)の7月の都市部失業率は、19.9%に達した。

 さらには、昨年春には予想もしなかったロシア・ウクライナ(露宇)戦争が今年2月末に勃発。資源国ロシアに対する西側先進国の制裁と戦災による供給途絶の不安から原油や天然ガス、小麦などの国際価格が急騰し、昨年から米欧を中心に顕在化していたインフレが一段と加速した。米欧でのインフレ率は40年ぶりの高水準が続いている。これを抑え込もうと、米欧の中央銀行が利上げに走ることで、世界経済は景気後退とインフレが同時進行するスタグフレーションにすでに入った公算が高い。

 米中対立と露宇戦争に伴い、それまでグローバルに最適化されていたサプライチェーンは解体に向かい、今後は日本を含む「西側」陣営、中露中心の権威主義陣営及び双方に中立を保ちたい第三世界陣営に三分(デカップル)される方向に向かうだろう。世界経済の成長にとって悪い知らせがまた一つ増える。それは輸出で栄えてきた中国経済にとっても同じだ。

 習近平体制は、この1年でにわかに不透明、不安定化した内外情勢を織…

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週刊エコノミスト

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