米国の景気が後退すれば日本も失速、YCC修正は困難に 宮嶋貴之
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過去、米国が景気後退入りすると、程なく日本も景気後退に陥っている。
米国でデジタル需要減り、アジア介したIT輸出に大打撃の恐れも
2022年7月、米国債券市場では米連邦準備制度理事会(FRB)の急速な利上げによって米国経済の減速感が強まり、23年5月ごろから利下げに転じるとの織り込みが強まった。だが、こうした観測は、8月に米西部ワイオミング州ジャクソンホールで開かれた経済シンポジウムが近づくにつれてやや後退した。
パウエルFRB議長は会合で、インフレ抑制に向けた決意を改めて示し、景気回復と物価両立を目指すと述べたものの、その実現は簡単ではなく、インフレ抑制のためには景気の減速がやむを得ないことも認めている。そのため、市場は固唾(かたず)をのんで景気の先行きを見守っている状況だ。
日本経済にとって、米国の景気減速感が強まれば逆風になることは明らかだ。過去の両国の景気後退期を比較すると、米国が景気後退期になった場合、同時期もしくはその後に日本も景気後退に陥っているケースが多い。
まして、現状は米国に次ぐ経済規模を持つ中国や欧州の方が、米国以上に景気後退懸念は強い。世界経済が今後、持ちこたえられるかどうかは米国にかかっているともいえる状況だ。本稿では、米国の景気減速感が予想以上に強まり、景気後退懸念が高まり、FRBが来年の早い段階で利下げに転じるというリスクシナリオが現実化した際の日本への影響を考える。
悪化する「ITサイクル」
まず実体経済へは、米国向け輸出の下振れを通じた悪影響がでるだろう。しかし、日本銀行が算出する実質輸出を見ると、コロナ禍以降、米国向けの輸出は一向に回復せず、コロナ禍前の19年平均を取り戻せていない(図1)。
この要因は、半導体などの供給制約によって、主力輸出品である自動車の生産低迷が続いていることだ。もちろん米国経済が悪化すれば自動車への需要はさらに弱まるが、供給制約の中でたまった受注残はまだあるとみられる。
むしろ筆者が懸念しているのはITサイクルの悪化が米国景気によって助長されることだ。コロナ禍を契機としたオンラインシフトや巣ごもり消費が押し上げ要因となり、ITサイクルは大きく改善してきた。しかし、足元ではコロナ禍の長期化に伴い、こうした需要が一巡し始めており、中国経済の不振も重なって今後需要が先細りすることが懸念される。
こうした中で今後もし米国経済が急速に減速すれば、IT製品への需要は一層減少し、ITサイクルは急速に悪化しうる。主要な半導体メーカーで構成する世界半導体市場統計(WSTS)の世界半導体売上高を地域別に見ると、21年半ば以降、中国を含むアジア太平洋地域向けの売り上げが減速する一方で、米国を含む北米向けの伸びは加速していた。
これは、米国内でのIT製品への需要が堅調で、そこに搭載する半導体の需要も増加したと推察される。裏を返せばITサイクルも米国の景気回復のけん引役の一因だったわけだ。もし、その米国経済が悪化すれば、ITサイクルも暗転する可能性が高い。22年5月以降は、北米向けの売上高の伸びにもピークアウト感が強まっている(図2)。
ITサイクルの悪化によって、日本にとっては特に中国やNIES(韓国、台湾、香港、シンガポール)、ASEAN(東南アジア諸国連合)といったアジア向けの輸出が下振れする可能性が高い。日本からの半導体や電子部品がアジア現地の工場に出荷され、そこで組み立てられたIT製品(スマホやパソコンなど)が米国などに出荷されるという貿易形態だからだ。
米国経済の悪化は、こうしたアジア向けのIT輸出の下…
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週刊エコノミスト
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