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原油価格押し上げた脱炭素 稼げるだけ稼ぎたい産油国 橋爪吉博
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先進国のカーボンゼロに対応し、産油国は高値路線に転換している。
穏健派のサウジとUAEも増産要請を無視
過去2カ月間、世界の原油価格は弱含みで推移している。2月24日のロシアによるウクライナ侵攻で、1バレル=120ドル台まで上昇した原油価格(米国WTI先物価格、以下同)は、7月に同100ドルを割り、8月には90ドルを割る日もあった。原油価格は、ウクライナ侵攻前水準(2月23日の92ドル)に戻ったとの見方もある。
欧米先進国の相次ぐ金利引き上げや中国の軟調な経済指標を契機とした、世界的な景気後退懸念が値下がりの主な要因だ。また、侵攻半年を経て、戦争が長期化の様相を見せる中、石油の供給不足懸念は後退している。ロシアへの経済制裁によりロシアから欧州連合(EU)に輸出されていた原油が、中国やインドなどロシアと関係の深い国にシフトすることによって、ロシアの原油生産量が当初想定したほどの減少に至っていないことも、最近の原油価格の急騰一服に影響していると思われる。
とはいえ、2014年以来の100ドル近い高水準で高止まりしていることは間違いない。9月5日に開催された「OPECプラス」(石油輸出国機構および同機構非加盟産油国で構成)の閣僚委員会(サウジアラビアとロシアが共同議長)では、最近の価格下落に対応して、10月以降の生産幅を、従来の小幅増産から減産に転換することで合意している。
さらに、米国とイランの核開発問題を巡る再交渉が最終段階にあり、両国の合意が成立すれば、OPECプラスは、対イラン経済制裁の緩和によるイラン産原油の輸出再開に対応した減産措置を検討しなければならない。原油価格の先行きは依然不透明だ(図)。
一貫して増産には消極的
20年の新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、石油需要は激減した。だが、これに対応するためのOPECプラスの減産協議が一時決裂したことで原油価格は暴落。同年4月20日に先物原油でマイナス37ドルという前代未聞の価格を付けたことは記憶に新しい。
しかし、5月以降、OPECプラスは過去最大の日量970万バレルの協調減産を実施。20年下期から価格は順調に回復し、21年末には77ドルで越年した。この背景には、新型コロナからの経済回復に伴う石油需要増加に対して、産油国の増産が遅延したことによる石油の需給逼迫(ひっぱく)が指摘されている。需要増加は当然として、増産遅延による供給不足が問題となっていたわけだ。
OPECプラスは、20年8月以降、需要回復に対応して、減産緩和(増産)に転じており、21年8月以降は、毎月日量40万バレルの小幅増産を行っていた。しかし、需要増加に比べて増産幅が小さ過ぎる上に、産油国の増産能力(生産余力)の不足で、生産量は合意した生産上限に達しておらず(22年7月の未達量は110万バレル)、多くの産油国は国別生産枠にも達していない。
コロナ後に石油需要は急拡大しているのに、産油国側が増産に消極的というのが、近年の特徴といえよう。従来、石油は需給サイクルにより需給の逼迫が起きつつも、基本的には常に供給過剰気味で推移する…
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週刊エコノミスト
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