戦争長期化でインフレを生み出す米国の「大いなる矛盾」 大堀達也(編集部)
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世界的インフレは、コロナ禍であふれたマネーではなく戦争をやめない国々が作り出している。
政治発インフレ
米連邦準備制度理事会(FRB)が特に注視する指標の一つに「期待インフレ率」がある。これは「普通国債利回り−物価連動国債利回り(実質金利ともいう)」で算出される。期待インフレ率が上がれば、インフレ率が長期にわたって上がる傾向があり、FRBが金融政策を決定する上で最も重要な判断材料になる。
その期待インフレ率が3月下旬をピークに低下している(図)。米国のインフレ率を表す消費者物価指数(CPI)は8%を超える伸びを見せFRBがインフレ退治に躍起となるなかで、期待インフレ率が頭打ちになったのは、米国の「物価連動債」利回りが急上昇したためだ。普通国債の利回りはエネルギーや食品の動向に敏感に反応するのに対し、物価連動債は変動が大きい品目を除いた「コアインフレ率」に連動するように設計されている。中国経済の不振などで下落した原油価格からは遅れて、コアインフレ率が反応し始めた。
具体的には米10年国債利回りがピークをつけた6月14日から、底を打った8月1日にかけて名目金利は91ベーシスポイント(ベーシスポイントは0.01%)低下したのに対し、物価連動債は80ベーシスポイントしか低下していない。つまり普通国債の利回りが原油価格の下落で急激に低下したのに対し、物価連動債の利回りは下げ渋ったので、期待インフレ率は低下した。
長期金利の上昇はウクライナ戦争が要因だ。米10年国債利回りが急騰したことで米株、金が売られた。しかし実質金利とみなされる物価連動債の利回りも上昇したことで期待インフレ率は落ち着いていった。
期待インフレ率の低下は市場関係者の心理を改善させ、夏場に米株は値を戻した。一部産油国の増産観測や中国の景気減速から、商品市況から投機マネーが抜けて原油価格の上昇圧力が後退したことも大きい。…
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週刊エコノミスト
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